2018 Fiscal Year Research-status Report
ルソーのアソシエーション論から女性の能動化と戦争を阻止する国家の創出を探究する
Project/Area Number |
15K03292
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鳴子 博子 中央大学, 経済学部, 教授 (00586480)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ルソー / 戦争 / フランス革命 / ジェンダー / 暴力 / 道徳 / 拒否権 / ポーランド |
Outline of Annual Research Achievements |
戦争一般から革命(内戦)に分析対象を絞り込むことになった本研究の平成30年度の研究課題は「ルソー的視座からの<フランス革命とヨーロッパ政治秩序>の探究」であった。 研究課題に沿って、①現代世界研究会での報告「フランス革命における暴力とジェンダー―バスチーユ攻撃とヴェルサイユ行進を中心に」②哲学雑誌『nyx』の論文「ルソーの革命とフランス革命―暴力と道徳の関係をめぐって」③『中央大学経済研究所年報』の論文「フランス革命における暴力とジェンダー―バスチーユ攻撃とヴェルサイユ行進を中心に」、④第27回中央大学学術シンポジウムの報告「ルソーの『ポーランド統治論』から見たヨーロッパ政治秩序―ポーランドとフランスの拒否権を対比して」の成果を得た。 まず①②③で、ルソーの革命概念と性的差異論という独自の視座から1789年のバスチーユ攻撃とヴェルサイユ行進という、男性主体と女性中心の主体による2つの民衆の直接行動を対比的に分析した。ジェンダーによって王権に対して行使される暴力のあり様、目的、質がどのように異なるのか、それぞれの直接行動が革命の進展にいかなる影響を及ぼしたかを明らかにした。 さらに④で、『ポーランド統治論』においてルソーが下した自由拒否権への特異な評価を参照点として、18世紀後半、祖国存亡の危機にあったポーランドにおける自由拒否権行使と18世紀末のフランス革命期に国王が行使した拒否権とを対比、分析した。その上で、拒否権を軸としてルソー的視座から2016年6月のイギリスのEU離脱国民投票を捉え返した。イギリスの今後は予断を許さないが、そこにポピュリズム現象ではなく、ルソー的なパトリオティズムの萌芽を見た。イギリス一国に留まらず、岐路に立たされるEUに論考を進め、ルソーの政治構想を「もう一つの新たなEU」を模索するための有用な構想として読み直す必要があることを提唱した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、二つの論文を完成させ、大学の紀要、出版社の哲学雑誌に発表するとともに、研究会報告およびシンポジウム報告を行うことができた。 とりわけ、12月8日開催の第27回中央大学学術シンポジウム『地球社会の複合的諸問題への応答』は、三年間のプロジェクトの総決算と位置付けられるシンポジウムで、自身も報告を行うとともに、理論研究プロジェクト代表として事前準備を進め、当日の司会も務めた。 以上のように、本研究の進展は順調であるが、ただ、シンポジウムの準備やその後の研究叢書の編集作業の影響で、懸案の海外での文献、資料の収集を行うことができなかった。 海外での資料収集を次年度に実施、予算執行することになった点を勘案して、以上の進捗状況の区分選択となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和元年度の研究課題は「<ジェンダー・暴力・権力>の探究」とする。 ①論文「ルソー的視座から見たヴェルサイユ行進とその影響圏―二つの祖国(家族と国家)と拒否権・暴力・権力―」(仮)を執筆、完成させる。 ②海外(パリを予定)での資料収集を夏と冬または春の二回実施する。 ③個人研究と共同研究「ジェンダー・暴力・権力」(平成30年2月3日のシンポジウム「ジェンダー・暴力・デモクラシー」を起点として、平成31年初頭より本格始動)とを連動させて進め、令和元年度内に共同研究の成果をまとめ出版する。
|
Causes of Carryover |
平成30年度は第27回中央大学学術シンポジウムの事前準備やシンポジウム後の学術シンポジウム研究叢書の編集作業の影響で、海外での文献、資料の収集を年度内に行うことができず、令和元年度に実施、予算執行することとなった。その点が主な理由である。令和元年度は海外での資料収集を夏と冬または春の二回実施する。
|
Research Products
(4 results)