2018 Fiscal Year Research-status Report
イギリス期カール・マンハイムの政治社会思想――精神の民主化・キリスト教・合理性
Project/Area Number |
15K03297
|
Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
山田 竜作 創価大学, 国際教養学部, 教授 (30285580)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | カール・マンハイム / 自由のための計画 / ムート / T. S. エリオット / Order |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、過去数年の間に科研費にて収集した多くの資料のうち、カール・マンハイムがキリスト教知識人グループ「ムート(Moot)」の第3回研究会で最初に報告したペーパー「自由のための計画」(1939年)を中心に、彼が「ムート」の中でどのように彼の思考を練り上げていったかの検討に着手した。「自由のための計画」論は英国期マンハイムの主要な議論であったが、そもそも「自由のための計画」という構想を初めて公表したのが「ムート」でのこのペーパーであったと考えられる。その中でマンハイムはほぼ社会のあらゆる領域における再建の必要性を説いているが、一般に考えられる「計画」という言葉の印象(典型的な批判は「設計主義」あるいは「指令型計画経済」)とは異なり、彼は従来のヨーロッパの伝統を否定して新しい社会を創設するのでなく、古い考えと新しい考えが混ざり合うことで思考と社会を再活性化することこそ「計画」であり、大衆社会状況の克服に必要なことと考えた。その際にマンハイムは、「ムート」の初期の段階で中心者のジョー・オールダムが提唱していた一種のエリート集団「Order」の実現を重視し、この第3回研究会以降も「Order」の必要性を繰り返し訴えることとなり、他のムート・メンバーとの温度差が明らかになっていく。それらの点に関して、以下の論考を執筆・公表した。 ・「カール・マンハイムの『自由のための計画』論における『Order』――ムート文書に見る知的エリート集団の構想」(上)、『創価法学』第48巻第1号 ・「カール・マンハイムの『自由のための計画』論における『Order』――ムート文書に見る知的エリート集団の構想」(下)、『創価法学』第48巻第2号
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の当初の計画のうち、「ムート」におけるマンハイムと T. S. エリオットとの間の議論については、限られた資料ながら一定の検討をすることができた。しかしながら、マンハイムの遺稿の1つ『文化社会学論集』における「精神の民主化」の解読までは進まず、むしろファシズムを生んだドイツではなく英国においてどれだけ「大衆社会 mass society」という言葉が使われたのか、という新しい問題が浮上してきている。また、本研究のもう1つの柱であったマンハイムと A. D. リンゼイとの関係であるが、入手できた資料はごくわずかに限られ、計画していた英国キール大学図書館におけるマンハイム文書とリンゼイ文書の調査は実現していない(これは、「ムート」文書の収集を優先し、2017年度にユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教育研究院図書館およびエディンバラ大学ニューカレッジ図書館での調査を行ったためである)。さらに、本研究において、「計画」があまりに合理主義的すぎるという批判に対するマンハイム自身の応答という問題もあったが、この点については海外の学会での発表準備を進めたが、学会自体が2019年度開催となったため、本研究を1年延期することとした。
|
Strategy for Future Research Activity |
マンハイムの「計画」概念が、それを批判する論者たちの考えるものとは異なっていたことを示す学会発表を海外で行うとともに、英国キール大学図書館のマンハイム文書とリンゼイ文書の調査を実施する。また、レイモンド・ウィリアムズによるマンハイムとエリオットの文化論の比較という課題が本研究には当初計画されていたが、ウィリアムズの議論は広く近現代の英国思想史の文脈を理解していないと理解できないことに気付いたため、本研究ではその点を後にまわし、これまで収集した「ムート」文書の解読、およびマンハイムが「ムート」で発表した諸ペーパーと彼の英国期の著作との関係性の解明、という課題の方を優先的に行うこととする。
|
Causes of Carryover |
当初は2018年度で研究が終了する予定であったが、本研究による海外学会発表を行う学会の開催日が2019年4月となり、年度を越えてしまうため、研究を1年間延長し、次年度使用額によって渡航することとなった。
|