2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K03299
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
星野 昌裕 南山大学, 総合政策学部, 教授 (00316150)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中国政治 / 民族問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中国の政治体制改革研究に対して民族問題からのインプリケーションを与えることを主たる研究目的としており、それを達成するための中国における民族問題の実証分析を行うため、2015年度は2つの地点においてフィールドワークを行った。 第1回目のフィールドワークは2015年8月14日から8月19日まで、中国・広西チワン族自治区で研究調査及び資料収集を行った。南寧市では広西民族大学などで中国・ベトナム関係研究の専門家と意見交換を行った。その後、中越国境の東興市へ移動し、周辺の社会状況について調査をした。そのなかにはべトナムへの不法越境で拘束されたウイグル族数名が中国への強制送還手続きを進める中で銃撃戦を展開した地もあり、そうした民族問題がどのような環境の下で発生したのかを確認することができた。中国とベトナムの国境には川が流れているものの、場所によっては軽くジャンプする程度で両国を行き来することが可能なほど川幅が狭い。ウイグル族が中央アジアへの脱出が厳しく管理される中では、今後も東南アジアへの不法越境は継起していくことが想定される。 第2回目のフィールドワークは2015年8月23日から31日まで、四川省成都市にある四川大学の協力のもと、ここ数年のうちに発生した二つの大地震、すなわち廬山大地震とブン(サンズイに文)川大地震の震源地およびその周辺を調査することで、震災復興状況、とりわけこの二つの地域が少数民族の集住地域だったことから、少数民族の社会や文化がどのように維持されつつ復興がなされているかについて調査した。いずれの地域も驚くべきスピードで復興が進んでおり、村々に散居していた少数民族を平地の一定区画に定住させるケースがみられたが、平地に建築された住宅はいずれも豪華なつくりとなっており、中央政府や他の地方政府からの多額な資金が震災復興地域に投下されていることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度は、(1)国内拠点での連携研究として「中国の政治体制改革の研究」と「政治変動理論と民族問題」に関する先行研究のレビューと関係資料の収集を行うこと、(2)海外研究機関との連携研究として、民族問題の視点から中国の政治体制改革を研究するための分析枠組を四川大学、中国社会科学院などと連携をとりながら構築していくこと、(3)海外でのフィールドワークとして民族問題の実態解明を実施することを研究目的に掲げていた。「研究実績の概要」でも述べたように、今年度は2つの地点で充実したフィールドワークを実施することができ、その調査地点で中国側の研究資料を収集することができた。このことから2015年度においては、ほぼ予定通りに研究が進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
民族問題から中国政治の将来を展望しようとする本研究にとって、無視できない政治アクターとなっているのが、中国国外で展開されている民族運動である。とくにアメリカのワシントンD.C.に拠点を置く、チベットやウイグルの民族団体の国際世論形成が、中国政府の政策決定に強い影響を与えはじめている。中国の政治体制改革の「可変の幅」を分析するには、国家からの遠心力として機能しやすい在外民族運動の総合的研究が必要となっており、この点の調査を実施する予定である。このような中国国外の民族運動組織との接触から得られた知見をもとに、新疆ウイグル自治区およびチベット自治区・青海省チベット族居住地でのフィールドワークも実施したい。 さらに、国家的アイデンティティと地方的アイデンティティの競合が、政治変動にどのようなインパクトを与えるかについての研究を進める予定である。中国の政治体制改革を民族問題の視点から分析することは、中国が国家統治をさらに強固なものにしていけるのか、あるいは国家分裂の危機に直面するかを見極めることにつながる。この研究目的を達成するために、地方の民族アイデンティティを抱えながら国家分裂を回避できたラテンアメリカ・南欧のケースと、国家解体に向かったソ連やユーゴスラビアなどのケースを比較研究することで、同様の構造的問題をもつ中国について、新たな知見を獲得したいと考えている。
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Causes of Carryover |
中国広西チワン族自治区への調査にかかる自動車借り上げ代が想定より低価格だったため、18万円あまりの次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度実施するフィールドワークの際に使用する。
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