2016 Fiscal Year Research-status Report
メコン地域主義の新たな位相-レジーム・コンジェスションと「下」からの越境的公共圏
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15K03311
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
五十嵐 誠一 千葉大学, 法政経学部, 准教授 (60350451)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | メコン / 地域主義 / 市民社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度から引き続いて「メコン・コンジェスション」に関する聞き取り調査を行った。まず、ベトナム・ハノイにおいて大メコン圏(GMS)経済プログラムとメコン機構(Mekong Institute=MI)のフォーカルポイントに聞き取り調査を行った。また、MIのドンハ支部を訪問し、MIが関与するベトナム・ラオス・ミャンマーの地方政府による越境経済協力についての最新の情報を得た。加えて、メコン地域を代表する市民社会ネットワークであるSave the Mekong Coalitionに関係する市民社会ネットワークへの聞き取り調査をハノイ・フエ・ダナンで行った。その際、ベトナム・ダナンからラオスのデンサバンまでの東西回廊と国境の調査も試みた。研究成果としては、2016年7月に日本平和学会の機関誌『平和研究』に「東アジアの平和の再創造」と題する巻頭言を公表した。同論文では、メコン地域を含む下位地域を平和学の視点から論じ、東アジアにおいては下位地域が重層的に形成され、それが新たな地域秩序への橋頭保となりうることと市民社会の参画が各下位地域で進んでいることを指摘した。2016年11月には国際シンポジウムにおいて、市民社会の視座からメコン地域とその内部のミクロ地域の実態を論じた。2017年3月に刊行された『東南アジア地域研究入門 3政治』では「市民社会」の章を担当し、地域主義研究の新たな理論的地平を開拓するために、ネオグラム主義を援用しながら、「メコン・コンジェスション」の現状と市民社会の関与の実態を考察した。加えて、メコンを含む東アジアの地域主義の新たな位相を理論と実証(人権、移民労働、環境、紛争予防などのイシュー)の双方から論じた学術書を出版する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
市民社会ネットワークの実態把握については、当初の計画以上に進んでおり、市民社会の「メコン・コンジェスション」への関与の実態と市民社会による「下」からのメコン地域主義の志向性を把握している。その一方で、「メコン・コンジェスション」の実態把握については、フィリピン、インドネシア、カンボジア、中国での調査を残している。理論アプローチの点では、批判的国際関係論(ネオグラム主義と社会構成主義)を援用し、新たに「批判的地域主義アプローチ」を構築し、国際機関、国家機関、地方政府、市民社会アクター、企業など多様な主体による地域規範をめぐるヘゲモニー闘争を分析する枠組みを完成させた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、フィリピン、インドネシア、カンボジア、中国で「メコン・コンジェスション」に関する関係者への聞き取り調査と資料収集を行い、引き続き「メコン・コンジェスション」の実態把握に努める。加えて、前年度に知見を得たベトナム・ラオス・ミャンマーに焦点を当てながら、地方政府の越境協力の現地調査を進める。理論アプローチの点では、前年度に「メコン・コンジェスション」、市民社会ネットワーク、地方政府の越境協力を権力構造から分析する「批判的地域主義アプローチ」を構築した。これを、『東アジアの新しい地域主義と市民社会』と題する研究書の理論編に収録し、秋ごろまでに出版する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究計画では、現地調査のための旅費が多くを占めるが、予定調査地(インドネシア、フィリピン、中国、カンボジア)に訪問することができなかったため、次年度への繰り越しが発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
8月~9月には、ベトナムのハノイで市民団体への聞き取り調査を行い、そこから陸路でカンボジアのプノンペンに向かい、メコン川委員会(MRC)への訪問調査を実施する。合わせてCLV 開発三角地帯(CLV-DTA)について、Ministry of Planningで聞き取り調査を行う。その後は、タイのバンコクに移動し、聞き取り調査ができなかったエーヤワディ・チャオプラヤー・メコン経済協力戦略(ACMECS)の担当者にインタビューを行う。2~3月には、ボーケオ県(ラオス)=チェンラーイ県(タイ)、クワンチ省(ベトナム)=サバナケット県(ラオス)=ムクダハーン県(タイ)を対象とした地方政府による越境協力の調査を実施する。ジャカルタ、マニラ、北京での「メコン・コンジェスション」の調査については、日数が少ないため、上記の調査期間以外に時に適宜訪問調査を実施する。
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Research Products
(6 results)