2015 Fiscal Year Research-status Report
EU統合における「世俗主義」の再評価ートルコ加盟交渉と「アラブの春」を手掛かりに
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15K03321
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
八谷 まち子 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), その他 (40304711)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 世俗主義 / 市民社会 / 寛容 / 自由 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度は、文献調査による机上作業とトルコおよびEU諸国での現地聞き取り調査を予定していた。文献調査は、世俗主義を主題もしくは関連する内容の文献を購入した。そのうちの一冊で、欧州におけるイスラーム教徒女性によるスカーフ着用を取り上げた文献について、フランス社会学、トルコ現代政治を課題としている研究者2名とともに書評研究会を以下のような内容で実施した。近接分野および欧州4か国のスカーフ着用へのアプローチの違いを議論することで「世俗」と「宗教」の距離の取り方を確認して有意義であった。書評文献:The Headscarf Debates" (A.Kortenweg and G.Yurdakul, Stanford U.P., 2014)実施日時:平成28年2月23日午後2時~5時、場所:東洋大学2号館6階B会議室 現地聞き取りはトルコ国内の治安状況に照らしてヨーロッパに限定することとした。ヨーロッパでの現地調査に相当するのは、コロンビア大学(USA)が中心となって平成27年7月8-10日にパリ行政学院にて開催された第23回CES国際会議(Council for European Studies)である。当該国際会議へは、"Varieties of Secularism"でセッションを提案したが採用されなかったので、宗教、世俗主義、市民社会と政治等の課題を中心に連日セッションに参加し質疑応答を利用した意見交換の機会を得た。日本ではなかなか取り上げられないキリスト教と市民社会、宗教と社会、宗教の歴史的功罪などが議論されて新たな知見を得ることができ、参考となる論文入手もできて有意義であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は文献研究を中心とする予定であったので、必要と思われる文献の購入もでき、参加した国際会議での議論に触発された書評会も開催できたので、ほぼ順調であった。 ただし、「アラブの春」以後の国際政治の現実は、研究計画当初の予測をはるかに超える紛争の悪化とそれに伴う難民の倍増、ヨーロッパの混乱となり、難民の対応に関する解説や講演を求められる状況への対応が増えた。とはいえ、難民問題を考察することは必ずしも本研究課題から外れたものとはいえない。難民としてEU諸国を目指す人の多くはイスラーム教徒であるが、EU諸国を襲ったテロとの混同により、難民受け入れをめぐって宗教を大きな問題とする社会の認識が広がった。こうした状況は、世俗主義と人権および民主主義の関連を新たに問いかけていると言える。「アラブの春」が宗教と民主主義を問う意義があったとすれば、その後の展開は世俗主義のあり方を再考させることになっているのではないか。トルコにおいては、独自の国内政治の展開がありトルコ憲法が規定する「世俗主義国家」とEUとの乖離は現実政治に翻弄されている感が否めない。当面はより国際関係の現状に沿った分析に取り組む必要があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
提出している研究計画書に記述した当該研究課題の目的は、EU統合における宗教的課題を「世俗主義」に依拠する諸政策を通して明らかにすることである。世俗主義原理と宗教課題との緊張は、トルコのEU加盟問題と「アラブの春」へのEUの対応であると考えていたが、「アラブの春」は、中東地域特有の状況とEUに派生している諸問題という二層構造を作り出している。すなわち、特定宗教諸派への弾圧は中東地域における内戦の激化となり、その結果大量の難民となった人々が保護を求めてEUへ向かうことなった。両者は個別の問題でありながら、根源を一にしている問題でもある。本課題の研究目的にとっては、難民対応というEUが取り組むべき現実的課題は重大な意味を持つ。能力を超える状況に対峙して現実的対応に大きく傾きつつあるようにみえるEUが、宗教を前面に押し出すことなく、人権や民主主義の理念を中心とする世俗主義政策をいかに実施するかという側面を分析に加えなければならないであろう。
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Causes of Carryover |
当該年度の余剰は9708円と少額である。申請経費のうち人件費およびその他の支出がなく、物品費が当初計画の2、2倍となった。これは、文献購入が予想よりも多額になったことが大きい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越し額9708円は、少額であるため特定の使用目的を考えてはいない。必要に応じて、直接経費4項目のいずれかに適宜補助的に使用する予定である。
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