2015 Fiscal Year Research-status Report
東アジア地域形成と「小国」行動原理の相互浸透モデルに関する研究―ラオスを事例に
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15K03322
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
森川 裕二 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (90440221)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国際関係論 / 小国論 / リージョナリズム / 地域形成 / サブリージョン |
Outline of Annual Research Achievements |
東アジアをめぐる国際政治は、中国の台頭と国際秩序で覇権的な地位を占めてきた米国の影響力の相対的低下が進行するなど、パワーシフトの兆候を呈している。従来、大国間関係の力学の中で論じられてきた東アジアにおける政治主体として小国の役割をラオスと地域形成の関連から明らかにするために、平成27年度は理論・実証研究の双方において、ラオスと周辺国ミャンマーとの比較・考察を実施した。小国研究は、小国の概念を定義することの困難さや小国に関する一般理論が不在であるため、国際関係の理論研究における主要なテーマから後景化する傾向にある。それに対し、リージョナリズム論および比較政治学との方法論的な連携により、「大国の権力に働きかける客体」としての小国を、メコン川流域のサブリージョン形成と、2015年発足のASEAN経済共同体に象徴される小国のリージョナリズムの中に位置づけて、政治主体としての機能を整理した。この理論的考察結果を検証するために、ラオス・ミャンマー比較研究に着手した。軍事独裁政権から緩やかな民主化放策を展開するミャンマーの選挙監視を兼ねて調査を実施(2015年11月。両国ともに貿易・投資の両面において経済開放策を展開し対外関係を深める一方で、他方ではASEANリージョナリズムを他のインドシナ諸国と連携しながら主体的に関与する。これにより、大国間のバランスを図るバランシング政策でもなく、大国に安全保障を依存するバンドワゴン政策のいずれもでもない独自の中立政策と、地域形成、そして国家統合の三位一体の政策を可能にしている実態を浮き彫りにした。これらの研究成果は、研究協力者とともに、ミャンマー選挙監視報告として記録するとともに、早稲田大学サブリージョン研究会(座長・多賀秀敏教授)で口頭報告し成果集に日本語論文を投稿し、平成28年度にRoutledge社から英文出版する書籍に収録予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、1980年~1990年代の小国論に関する国内外の先行研究の整理と、東アジアとくに東南アジアにおけるリージョナリズム研究についての文献サーベイを主体し研究に取り組んだ。その成果を検証するためにミャンマーの現地調査結果とラオスとの比較研究を実施した。これにより、本研究の主軸となる理論研究と実証研究の双方で掲げてきた(1)境界を画定し中立性を維持しようする政治的意思、(2)開発援助・協力を通じて隣国との政治経済的な結びつき強め地域を形成する―「国家統合と国家の相対化」という二つの対立するベクトルの所在を確認した。この理論・実証研究の成果によって次年度以降に取り組むべき小国研究の仮説(地域形成・中立政策・リージョナリズムの連繋)を導き、本研究の方法論的枠組みを提示することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
理論研究においては、これまでの研究成果を練磨するために、欧州の経験則に基づく小国に関する理論研究に加えて、アジア研究者による国際理論およびリージョナリズム研究を悉皆的に網羅し系統的に比較分類する。これらの調査研究を通じて小国論の研究の新しい視座を体系化する。実証研究面では、中老国境、中国タイ国境の両地域の開発状況を調査するととともに、ラオス政府関係者を含むインタビューを実施し、ラオスの「ASEAN地域統合―CLV地域協力―二国間援助(中国)」の重層的な開発プログラムの実践内容と政策の志向性を明らかにする。
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Research Products
(5 results)