2016 Fiscal Year Research-status Report
人の越境移動のグローバル・ガヴァナンスについての研究―EUアプローチを起点として
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15K03330
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
岡部 みどり 上智大学, 法学部, 教授 (80453603)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 欧州難民・移民危機 / EU出入国管理 / 人の国際移動 / 制度化 / 欧州統合 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は当初の予定を大幅に変更し、論文及び著書の執筆や学会報告を中心とする活動に従事した。この大きな理由は、平成27年から続くEU各国で人の国際移動をめぐる政治的混乱が一向に収まらない状況を受け、一連の混乱がEU出入国管理行政及びそれに関する欧州国際関係の構造的な変化を生み出しうるものであるのかどうか把握することが先決だと思い至ったことにある。本年度は、まず、『人の国際移動とEU-地域統合は「国境」をどのように変えるのか?』(法律文化社)を編纂した。また、11月には、日本EU学会年次研究大会において、「制度化の失敗-欧州難民・移民危機と対外政策としての出入国管理」と題する報告を行った。この報告を基に、論文(『日本EU学会年報』第37号に「EUによる広域地域形成とその限界-対外政策としての出入国管理」)を掲載予定である(査読済み。最終校正完了)。これらの報告及び執筆を通じて、欧州諸国が直面する現状は人の移動管理についての欧州統合の道筋を変えうるものであるという結論を得た。また、研究を通じ、欧州統合体についての新たな把握の方法が必要となると考えるに至った。この考えは、常に進展を前提とする統合の理解は不適切であり、緩やかな国家間提携が選択されるという可能性についてもっと注目するべきだという示唆を含む。もっとも、現在のいわゆる「欧州難民・移民危機」は一部の言説において見受けられるところのEUの解体につながるものではない。EU内部における、またEUを主体とする域外世界との関係構築に連なる制度は今後も維持され、新たに形成される傾向にある。留意すべきは、その制度形成のされ方が従来とは異なるものとなっていくであろうということであり、その前提に基づいた研究が今後必要となってくることが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のとおり、当初の予定とは異なるプロジェクトに着手したが、(欧州)国際関係の行く末を大きく左右する可能性のある人の国際移動についての問題を優先的に検討することは、本研究課題の有意義な進行のために必要なことであった。そして、新しく設定した課題については、著書、論文、学会報告をそれぞれ行うことで順調に遂行できているものと考える。当初予定していた海外調査は見送る形となったが、本年度の研究を踏まえて平成29年度に行うこととしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、前年度の研究を踏まえ、改めてEUの志向するグローバル・アプローチのあり方に焦点を当てる。既に前年度の研究において明らかにしたように、将来的にはEUの制度化が緩やかなものになる可能性を視野に入れ、他方でグローバルなレベルでの人の移動管理(「グローバル・マイグレーション・ガバナンス」)へのEUの関与のあり方に着目する。EUの対外政策という側面では既に一定の研究の蓄積があるが(「日本EU学会年報」掲載論文もその一部である)、本年度は、その研究を引き続き遂行するとともに、グローバル・ガバナンスのスキームそのものを分析の対象に置く。現時点では、国連機関のほか、世界銀行の取り組みについて調査することとする。 研究の方法として想定しているのは以下のとおりである。まず、グローバル・マイグレーション・ガバナンスについての先行研究の把握及び自身の論考を論文として執筆する。次に、その論考をたたき台としていくつかの学会、研究会で報告を行う。現時点では、東京大学駒場国際政治ワークショップ、及び国際法学会での報告を予定している。なお、報告の機会は今後増える可能性がある。また、一連の研究活動は、当初予定していたA. Betts編著"Global Migration Governance"の翻訳に代わるものとなる。 海外調査は、世界銀行ワシントンDC本部にて「人の移動と開発」プロジェクトに関わるスタッフへのインタビューを行う。このほか、国連が主導する難民や移民の保護を目的とするグローバル・スキーム(UN summit for refugees and migrantsなど)について調査を行い、必要また予算に応じて関連機関の所在地に出向くこととする。海外調査については、一部は翌平成30年に行う可能性も想定している。
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Causes of Carryover |
当初の予定を変更し国内におけるプロジェクトの遂行に従事したため、旅費等に当てられていた予算の一部が未使用状態となっているため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度に海外調査を実施するための経費として当該年度予算に合算する。
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