2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K03363
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
渡部 真弘 立正大学, 経済学部, 准教授 (00327694)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
花薗 誠 名古屋大学, 経済学研究科, 准教授 (60362406)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 情報の非対称性 / 契約理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,運用上のコストが高いと思われる最適契約を十分に代替する区分的線形契約の可能性を模索することである.平成29年度は前年度に引き続き,インセンティブ契約と第2種価格差別(非線形価格)に関する理論的分析を行った.インセンティブ契約に関しては,アドバース・セレクションとモラル・ハザードの双方を伴うプリンシパル・エージェント問題における区分的線形契約のパフォーマンスに焦点を絞り,具体的なパラメーターの下での数値計算ではなく論理的な分析結果を示した.前年度は,簡素な成果主義的な線形契約と理論的に示唆される複雑な契約との比較において,労働者が持つ能力や生産性といった異質性が不均一に分布している場合,単一の線形契約は必ずしも十分なパフォーマンスを発揮しないことが確認されたが,簡素な契約の範囲内で企業の業績を改善する可能性については明らかにならなかった.今年度は,簡素な成果主義的線形契約から一定の業績までは報酬が定額となるような区分的線形な報酬制度に移行することによって,私的情報として解釈される労働者の特性の分布が不均一になる程度に関わらず,理論的に示唆される複雑な契約のパフォーマンスが十分に達成されることが明らかとなった.研究成果をディスカッション・ペーパーとしてまとめるに至った. 第2種価格差別(非線形価格)に関しては,利潤最大化問題・社会的厚生最大化問題の双方において,複数の屈折点を持つような最適な区分的線形契約を特徴付ける手法を整理した.しかし,区分的線形契約が最適契約の十分な近似となるような経済環境については,引き続き検討する必要が生じた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度は主にプリンシパル・エージェント問題としてのインセンティブ契約と第2種価格差別(非線形価格)に関する理論的分析を行った.インセンティブ契約に関しては,労働者が持つ私的情報の分布の不均一性に対する成果主義的契約の脆弱性を克服することが比較的容易であることを明らかにした.具体的には,簡素な成果主義的線形契約から一定の業績までは報酬が定額となるような区分的線形な報酬制度に移行することによって,理論的に示唆される複雑な契約のパフォーマンスが十分に達成されることを明らかにした.複数回の口頭発表を経ることで研究成果はディスカッション・ペーパーとしてまとめるに至った.現在、この成果は英文国際学術雑誌の審査中である. 第2種価格差別(非線形価格)に関しては,幾つかの論点や手法についての予備的研究を済ませた.利潤最大化問題・社会的厚生最大化問題の双方において,複数の屈折点を持つような最適な区分的線形契約を特徴付ける手法を整理した.加えて,消費者の異質性の分布の歪みに応じて,区分的線形契約の特殊例としての2部料金制がどのように変化するかを分析した.マーケティング戦略としての基本料金と使用料金の設定方法に示唆を与えるものと解釈される結果を得た.2部料金制に関する成果は紀要論文に掲載される予定である.最後に,異質な消費者に直面している企業の利潤最大化問題において,曖昧さに対する企業の回避的行動が契約の形態に与える影響を考察した.利潤への貢献度が最低となる消費者との取引のみが微小な確率で生起することを考慮する企業の利潤最大化問題を解くことになるが,企業の曖昧さに対する回避的行動だけでは,区分的線形契約が最適契約の十分な近似であるという確証は得られなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
インセンティブ契約に関する研究は一段落したので,第2種価格差別(非線形価格)に関する研究成果を取りまとめる.予備的研究として済ませた複数の論点に関する考察を踏まえて,研究打ち合わせを頻繁に実施する.特に,曖昧さに対するプリンシパルの回避的行動が最適契約に与える影響を明らかにすることにより,十分なパフォーマンスを有する簡素な契約の在り方を模索する.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は,研究打ち合わせや学会での研究成果の報告に要する経費を確保する必要があったことが挙げられる.
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Research Products
(5 results)