2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K03364
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
須賀 晃一 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (00171116)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若松 良樹 学習院大学, 法務研究科, 教授 (20212318)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 行動選択 / 規範 / 情報的基礎 / 自由 / 責任 / 義務 / 主体性 |
Outline of Annual Research Achievements |
第1に、様々な状況に応じて、我々のとるべき行動は異なる。政治的自由や経済的自由が最大限に許容されている理想的な市場社会では、行動選択基準は明確であり、結果も効率性と公平性を満たすことが示される。しかしながら、いったん理想から離れてしまうと、社会保障を前提として行動選択を考えなければならず、その情報的基礎も権利や所得、資産にまで拡大しなければならない。巨大災害の場合、起こる確率は極めて小さい一方で、その被害が甚大で社会全体を危機的状況に陥れるので、単純な期待値計算では適切な行動選択行われえない。マキシミン原理や予防原則のような基準を適用する必要について論じた。 第2に、時間軸を明示的に導入すると、同一の行動選択基準に服することが意思決定の順番に依存して異なる利益をもたらすため、容易に正当化できなくなる。具体的に世代間衡平性の問題を扱った。将来世代に強い影響を与える現在世代の決定はクジ引きに似ているので、ある世代には損失を与えるが、残りの世代には利益を与えるようなクジに参加すべきかを考察した。種としての世代間クジの期待値を計算し、クジを引く順番が決定的に重要であること、現在世代は常に最初にクジを引くという有利な地位にあることを示した。 第3に、パターナリズムの問題を行動経済学の立場に立って議論することで、行動選択基準の実証分析の足がかりを得た。アメリカ社会に蔓延する肥満問題に対する処方箋の一つとして、行動経済学の知見を利用したパターナリズムが注目されているが、実はパターリズムがあまり有効な処方箋ではないことを示した。また、サンスティーンとセイラーによるリバタリアン・パターナリズムを取り上げ、行動選択基準の実証理論として行動経済学がどれほどの有効性を持っているかを実験経済学の手法を用いて検討した。彼らの理論は、実際にはそれほど妥当する範囲が広いわけではないことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度であるので、基礎的な研究に集中し、メンバー間でテーマの統一的な理解を得ることに努めた。 [個別テーマ]行動選択基準の公理化 社会的選択理論の公理化の方法を行動選択基準の公理化に適用して、様々な基準の特徴づけを行うことを目標として掲げた。この目標自体が本研究課題の全体関わりを持つので、センの潜在能力アプローチを具体例として取り上げ、公理化に際して克服すべき課題を洗い出した。様々な機能が行動選択に影響を及ぼす場合、ある機能の観点からは許容される行動が別の機能の観点からは拒否されるならば、最終的にどの行動を選択するかという道徳的対立が発生する。このように、非厚生主義の立場に立つ行動選択基準の公理化を、行動選択の理論に適用するためには、帰結の評価を超えて非帰結を情報的基礎とした場合の理論展開が要請されるため、メタレベルでの公理の哲学的基礎を吟味するという作業が必要となった。ヘアによる功利主義の正当化理論は、有益な示唆を与える点を確認した。 [理論的体系化のテーマ]行動選択基準の情報的基礎の再検討 基礎的な研究として避けて通れないのが、行動選択基準の情報的基礎に関わる哲学的問題である。この年度の[個別テーマ]と重なるテーマであったので、区別を設けず議論を進めた。特に重視したのが、センの潜在能力アプローチにおいて、自由と責任、権利と義務、帰結とプロセスなどの情報的基礎を、行動選択基準との関連でどのように扱うことができるか、またそれらの情報的基礎の持つ社会的意味と価値について十分な検討が行えるだけの土俵が提供されているかであった。現段階では、我々とは異なる目標の下で構築された理論であるので、コンパクトに再構成する必要があることを確認し、その作業を継続している。 以上のように、いずれのテーマについても大体において当初の予定通りに、本研究は順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度も、前年度と同じく具体的テーマと理論的テーマに分け、適切な役割分担の下に資料収集し議論を深める。センの潜在能力アプローチに基づく行動選択基準については28年度も継続して行う一方、[個別テーマ]として功利主義の対極にある義務論とその代表であるカント的行動原理についても検討を行う予定である。 [個別テーマ]義務論とカント的行動原理 行動選択の基準として現実の世界で決定的な重要性を持っているのが、義務の概念である。各人の社会的な地位に対応して様々な義務があり、それに従う行動選択は社会構成員としての不可欠な資質とさえみなされる。義務論に与する極端な立場は、カントの定言命法によって表現される行動原理である。この行動原理の理解は、効用最大化の行動選択とは対極をなすものであるがゆえに、理論の展開に重要な役割を果たす。 [理論的体系化のテーマ]行動選択基準の情報的基礎の再検討(継続) 前年度に続いて、行動選択基準の情報的基礎に関わる哲学的問題を扱う。今日の政治哲学や法哲学でも、避けて通ることができない問題群を構成しているので、十分な時間をかけて再検討したい。効用対権利という古典的な対比もまた、検討すべき課題を提供している。 昨年度の研究を通じて、帰結主義・非帰結主義、厚生主義・非厚生主義、義務論・目的論といった異なる立場の行動選択基準を包括的に比較検討するためには、情報的基礎のメタレベルでの吟味が必要であり、ヘアによる二段階の功利主義正当化理論が有用であることを確認した。そこで、ヘアに倣い、メタレベルでの情報的基礎の選択とそれに基づく行動基準の選択と、メタレベルでの基準選択を所与とした日常レベルでの行動選択の体系的把握を可能とするモデルを構築すること、さらにメタレベルと日常レベルを分ける際に情報的基礎が果たす役割について検討することが今後の課題の1つである。
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Causes of Carryover |
研究代表者、研究分担者とも、国際学会での報告を予定していたが、本務校での責任の重い業務が予想外に増え、それらとの調整がうまくいかず、昨年度は学会報告を見送った。そのため、海外出張用の旅費に使い残しが生じた。 また、学外の研究者を呼んでセミナーを行うために謝金を確保し、さらに付随する作業に必要なアルバイトの人件費も計上していたが、昨年度はその年度で使い切らなければならない別の予算を獲得できたので、そちらの予算を先に使用した。その結果、人件費と謝金が余ることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、昨年度の実績以上に外部の研究者によるセミナーの回数を増やす予定であり、そのために謝金を増額する。昨年には呼ぶことが困難であった遠方の研究者にも積極的にセミナーの依頼を行う予定である。 また、本年度の後半には共同で学部の授業を行い、これまでに得られた研究成果を体系的にまとめながら、新たな論点を探ることにしている。今まで論文やメモなどをまとめるためには研究補助を引き受けてくれる大学院生のアルバイトが欠かせない。そのために人件費を増額する予定である。
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Research Products
(6 results)
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[Book] 公共哲学2016
Author(s)
山岡龍一・齋藤純一・須賀晃一・平川秀幸
Total Pages
268
Publisher
放送大学教育振興会