2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K03382
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
新村 聡 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (00167561)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アダム・スミス / 平等 / 大きな政府 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は, アダム ・ スミスの平等論について 経済思想を中心に多面的に考察し全体像を探求することである。平成29年(2017年)度は以下の成果があった。 1.スミスの大きな政府論の成立過程の考察――スミスはしばしば小さな政府論の代表者と見なされてきた。たしかに『法学講義』では自由放任と小さな政府を政策基調としており,『国富論』でも通商政策に関しては自由貿易を堅持している。しかし他方で,金融政策は『法学講義』では自由放任を基調としていたのに対して『国富論』では少額銀行券発行禁止や高利禁止などの政府介入を支持するようになる。また政府の役割についても,『法学講義』では司法と軍備だけに限定していたのに対して『国富論』では公益を目的とする公共事業と公共制度(道,橋,運河,港,貨幣鋳造,郵便事業,小学校,株式会社認可など)に拡大している。さらに租税論でも以下に述べる発展があった。 2.スミス租税論の発展――スミスは『法学講義』では経済主体の勤労や投資の意欲をできるだけ妨げない軽い税を主張していた。しかし基本思想を『法学講義』の不平等容認論から『国富論』の平等主義へ転換したことに対応して,『国富論』では税制を通じた所得再分配と平等化を主張するようになる。スミスは,税の公平性,イングランドとフランスの土地税の優劣,累進税,消費税,相続税・登記税・印紙税などの資産課税等の問題をめぐって,『法学講義』から『国富論』へ見解を大きく変更するのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
スミスの平等論について,これまで『法学講義』行政論と『国富論』を中心に研究をすすめて大きな成果を得たが,『法学講義』正義論の考察がかなり残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は,アダム ・ スミスの平等論について,経済思想を中心に多面的かつ包括的に考察して全体像を探求することである。平成30年(2018年)度は以下を中心に研究する予定である。 (1)家族制度論とジェンダー平等論の考察――スミスは,『法学講義』家族法論において,結婚制度の歴史的進化を考察している。本研究では,スミスがキリスト教導入後の結婚制度をもっとも高く評価している点にジェンダー平等の思想が示されていること,また家族制度論で公平な観察者の共感が方法として用いられていることを明らかにしたい。 (2)奴隷制度批判の考察――奴隷制度批判は近代平等論の中心問題であり,ホッブズのアリストテレス批判の中心論点であった。スミスは『法学講義』家族法論で奴隷制度批判を詳細に行っており,その論理をかれの平等論全体の中でどのように位置づけられるかを考察する。さらに同時代の他の論者の奴隷制度批判と比較してスミスの議論がどのような特質を持っていたかについて検討する。 (3)平等論のレトリックの考察――平等をどのようにして人々に説得するかは,古代のプラトンやアリストテレスのレトリック(修辞学,弁論術)の中心テーマであった。その説得方法は2つあり,1つは平等の正しさをそれ自体として示すこと,もう1つは平等が人々に幸福をもたらすことを示すことであった。この古代レトリックの2方法は近代のホッブズにも継承されている。本研究では,2つの説得方法がスミスの平等判断における直観的および帰結主義的方法の区別に対応していることを示し,スミスが2つの説得方法を自らの著作の中でどのように用いているかについて具体的に考察する。
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Causes of Carryover |
購入予定の研究文献の一部の購入が翌年度になった。 翌年度分として請求した助成金と合わせて研究文献を購入する予定である。
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