2016 Fiscal Year Research-status Report
ロシア革命再考:戦争・アナーキー・飢餓のなかの革命的社会主義の勝利と挫折
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15K03386
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
森岡 真史 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (50257812)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 不足 / 余剰 / 需要制約 / 供給制約 / 行列 / 販売競争 / 獲得のための闘争 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では,次の点を明らかにした。1 革命後に形成された経済体制が直面した諸困難のうちで,資源利用における効率性の全般的な低下,生産財の配分をめぐる大規模な混乱,私的・個人的創意の甚だしい制限などの現象は,『資本論』の刊行からロシア革命直後までの約半世紀の期間に展開された社会主義経済の理念的モデルを対象とする演繹的批判においてすでに予見されていた。2 生産と労働力の両面で需要に対して供給が過剰である状況から,生産と労働力の両面で需要に対して供給が不足する状況への転換,およびそれに伴う,労働者が労働力販売のための競争および失業の恐怖を鞭とする資本の支配から解放される一方で,基本的な消費物資を購入あるいは獲得するための,供給者の前での行列を典型的形態とする不断の闘争を求められるようになるという転換は,上述の演繹的批判の射程をこえるものであった。3 ソヴェト経済における不足は,革命直後の数年間における生産の収縮および国民経済の崩壊の下での伴う絶対的な不足と,五カ年計画期以降の,生産の拡大と民衆の消費水準の漸次的な上昇を伴う需要に対する供給の相対的な不足とに分けられる。4 消費財の購入あるいは調達は,様々な財について同時並行的に進行する過程であり,人々はそれをめぐる人々との闘いを強く意識せざるをえなかった。行列において有利な位置を占めるための,供給者への追加的な支払を含む様々な日常的努力は,消費生活の基本的要素を構成する。5 このように獲得に注がれた多くの労力にもかかわらず,企業の関心と努力もまた販売ではなく原材料や設備の確保をめぐる他の企業との競争に向かい,生産物を需要に適合したものにするための改善や工夫は進まなかった。財の種類の乏しさや品質の低さは,財の獲得に必要な労力・時間の大きさに加えて,社会主義経済における消費生活における満足を引き下げた重要な要因である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調と判断する基本的な理由は,本研究の副題に掲げた,戦争,飢餓,アナーキーという革命期のロシアを特徴づける諸側面について,不足の発生と定着という観点から,ソヴェト経済の形成過程との関連を整理することができた点にある。この関連を簡単に言えば,第一次世界大戦は,首都への守備隊兵士の集積に加えて,穀物・燃料・輸送の不足をもたらすことによって,革命勃発の政治的・経済的環境を創出した。二月革命の直接の起点となった食糧不足を,ボリシェヴィキは,一方では,市場向けに農産物を供給する独立農民経営を含む全ての私有地を対象とする土地の共同体単位での全面的な再分配を認めることによって(この農民による土地革命は,社会秩序の崩壊とは別の意味での,最大規模のアナーキーである),他方では,穀物取引から零細な担ぎ屋を含むあらゆる私的仲介者の徹底した排除をはかり,都市への穀物供給の意欲を著しく減退させて,民衆の生存を危うくする全面的な飢餓へと至らしめたのである。革命期の経済崩壊を,土地革命および私的商業の排斥による農産物供給の縮小と,金融機構との切断および集権的管理の下での工業生産の麻痺の結合的結果としてとらえ,これを不足経済形成の最初の局面と位置づけることは,社会主義経済の歴史的形成の理解を,この経済システムの理論的分析と結びつけることが可能にする意義をもつと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年間の研究により,歴史的実在としてのソヴェト社会主義経済の特質を,資本主義経済と対比しつつ理解し説明するための基本的な認識枠組みはある程度整った。残りの期間では,これらの枠組みにをふまえ,革命的社会主義の勝利と敗北という点に関わって,社会主義経済への移行は一般の労働者・生活者に対してどのような解放と束縛をもたらしたのか,社会主義の理念はどの面で実現しどの面で変容を遂げたのかを,具体的な事実に照らしつつさらに立ち入って明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
ロシア国立図書館において有料での複写を予定していた文書資料の一部が,デジタル化され,無料でダウンロードできるようになったため,予定していた費用の一部が不要となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については,研究を進める過程で新たに入手が必要となった文献の複写費用にあてる予定である。
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Research Products
(6 results)