2016 Fiscal Year Research-status Report
粒子フィルターを用いた非線形状態空間模型の次元の検定
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15K03394
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小林 正人 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (60170354)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Stochastic volatility / ラグランジュ乗数検定 / 分布の退化の検定 |
Outline of Annual Research Achievements |
二変量のstochastic volatility modelにおいて、二つのvolatility factorが完全に一致する仮説のテストを構築した。複数の金融資産のリスクが同一の発生源もつ場合や世界的な金融危機の場合、volatilityの分布の相関が強まり、同一の確率変数とみなすことが十分可能となると考えられる。したがって、複数のvolatility processの分布が退化し、一変数のvolatility processであるという仮説を検証することは学術的におおきな意味がある。 この問題は分布が退化するという帰無仮説を検定するものなので、パラメーター空間の境界に仮説値が存在し、仮説のもとでの最尤推定量はもはや対称な正規分布に従うことができず、通常のWald検定や尤度比検定を使うことはできないため、ラグランランジュ乗数検定を導出した。このとき、退化する密度関数を含む積分の計算が必要なため、算出が困難であったが、Chesherが提案した方法によりスコア関数の導出が可能になり、統計量の導出をおこなうことができた。また、誤差項の間に相関があるという状況も考慮できるよう、帰無仮説が正しいという前提のもと、誤差項の相関を除去する手法も同時に提案している。 この検定を用いて、複数の外国為替市場間のvolatilityの相関の検定および複数の各部式市場のvolatilityの相関の検定を行った。経済的に関連の深い国の間は帰無仮説が棄却されないという妥当な実証結果を得たが、金融危機時と平穏な時期の比較においては、平穏時期のほうが仮説が棄却されにくく、金融危機時には仮説が棄却されるという通説とはことなる結論が導かれた。 本論文は日本統計学会英文誌に投稿し、査読ののち出版許可を受けており、近々公表される予定である。。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本論文では、状態空間モデルの推定と検定の手法の開発を目的としており、 二変量という限定されてた問題ではあるが、仮説検定の手法を開発できたことは十分な目的を達成している。いくつかの研究会で発表の後、本論文は日本統計学会英文誌に投稿し、査読ののち出版許可を受けており、近々公表される予定であり、今の段階としてはほぼ十分な成果をあげることができたと思われる。 当初予想していなかった、誤差項の相関の存在の処理という問題の処理を巡り、研究は混乱したが、一定の想定のもとでは、誤差項の存在を消去する方法を求めることができたため、実用可能な検定を得ることができた。すなわち、帰無仮説が成立しているという想定で誤差の相関をCholesky分解で除去したものである。ただ、ややアドホックな修整であるため、変数の順序変更によりしばしば非整合的な結論が得られるため、より自然な形で誤差項間の相関をモデルに含めたうえで、検定量の導出をすることが望ましく、これは次の過大である。 また、当初の研究計画では粒子フィルタの利用により、計算の高速化と高精度化が可能になると予想して研究を開始したが、我々の問題にたいしては予期したほどの効果はなく、伝統的な手法により計算を行った。より一層の高速化と高精度化を達成するためには、粒子フィルターに加えた、別の工夫が必要であると考えられるので、目下、そのための準備を行っており、今回の研究の終了時までには一定の成果がえられると予想できる。先にのべた、誤差項の相関の問題も計算の精密化と高速化が実現できれば容易に解決できる問題であると予想されるため、次のステップではこの問題に専念したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今の時点では、多変量のstochastic volatility modelとはいっても、そのモデルで扱う変数の数は二つであり、ポートフォリオでの運用が重視される現在のファイナンスの実証分析で有益なものとするためにはより多くの変数を使えるようにする必要がある。また、誤差項間の層化の処理も、今までの研究成果では強い仮定のもとでアドホックな方法を提案し、実証分析をおこなった。いずれの問題もその根本は、数値計算に時間がかかるばかりでなく、その精度が十分でなく、今までの枠組みの中ではモデルの複雑化には限度があることに原因を持つものである。 現在のファイナンスの時系列分析の発展は目覚ましいものであるが、高速化と高精度化という面においては、経済、金融の研究者の成果は十分ではなく、数学および工学のアルゴリズム研究者の成果を利用することがもっとも効果的であると考えられる。現在は、この方面において研究をすすめており、ことなった文脈の分析ではきわめて満足すべき結果が得られている。工学の世界で開発された高速なアルゴリズムの利用により、より高次元の変数を処理できるモデルを開発することをまず目指し、さらにそのモデルの検証のためのテストを開発することが第一段階である。 第二段階としては、相関構造の現実的、かつ柔軟なモデル化とその推定方法の開発である。現在の金融投資では複数の資産をくみあわせたポートフォリオとしてリスクを管理することが多い。このとき、相関構造のモデル化にはcopulaを用いる方法と多変量のGARCHやstochastic volatilityモデルを用いる方法の二つの流れがある。前者は解釈が容易であるのに反し、制約が大きく、柔軟性に欠け、後者は柔軟であるものの解釈が容易でないという欠点を持つ。今後の研究としてcopulaの解釈可能性を維持しながら、より柔軟なモデルを開発することをめざす。
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Causes of Carryover |
全体としてはほぼ予定通り執行できたが、最終段階で、要な書籍等の価格変動があり、厳密な執行をおこなうことができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究費必要な紙等の消耗品の購入に利用を計画している。
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Research Products
(3 results)