2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03418
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
塩路 悦朗 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50301180)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マクロ経済学 / 金融政策 / 銀行行動 / パネルデータ / 質的量的緩和 / マイナス金利 / イールドカーブコントロール / 失われた20年 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度に進めた研究成果は論文の形となって結実した。第1に日本語論文を、査読を経て、『現代経済学の潮流2016』第2章として公刊することができた。第2に、同論文の成果を発展させた英語論文を2つの国際学会と1つの国外大学研究会で報告することができた。特に欧州経済学会年次大会においては、非伝統的金融政策に関する研究を集めたセッションで報告を行う機会に恵まれた。欧州における同政策に対する関心の高さを反映して多くの聴衆を得ることができ、熱のこもった議論から多くの有意義な意見を得ることができた。これらの助言をもとに同論文の改訂作業に取り組んだ。 本研究プロジェクトの大きな特徴は個別銀行の財務諸表をもとにパネルデータを構築したこと、中でも単体ベースの年次(3月末の決算期)データと並んで連結ベースの半期(9月末・3月末)データを活用していることにある。後者は日銀の量的・質的緩和政策のように数年しか行われていない政策の効果を推定しようとする場合には特に有用である。また近年、前者データでは分析に必要な情報が開示されなくなってしまっており、その点からも後者のデータは重要である。ところが、研究者がこれまで依拠してきたデータソースの日経NEEDS Financial Questでは、9月末における各銀行の国債・地方債保有額がわからないという大きな問題があった。量的・質的緩和はポートフォリオ・リバランス効果を通じて銀行の国債需要に影響し、それを通じて国債金利、ひいては実体経済に影響するという有力な仮説がある。その検証のためには上記データが重要である。幸いにも、この情報は各行の半期決算(第2四半期決算)の付注から抽出できることがわかった。この情報を含めてデータセットをアップデートした。またこれをもとに量的・質的緩和期の銀行行動を分析した。その成果をまとめた論文を2本執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでは利用可能でないと考えていた個別銀行の国債・地方債保有に関する連結ベースの第2四半期末(9月の中間決算)データを発見することができた。各銀行の有価証券報告書の付注から数字を拾ってこなくてはならなかったので作成に時間を要したが、2012年以降の地方銀行に関するデータセットを構築した。これと既存のデータセットを結合することで、量的・質的緩和政策導入以降の時期にかかわる詳細な半期(半年次)ベースのデータセットを完成させることができた。これをもとに同政策下及びそれ以降における銀行行動に関する精密な分析が可能になった。このデータセットに基づいた第1の研究成果を論文にまとめ、日本経済学会秋季大会に投稿することができた(最近、採択の連絡を受けた)。また、第2の研究成果を福田慎一氏編著の書籍(仮題:『金融システムの制度設計』(有斐閣))の1章として公刊予定である。 本データセットは平成29年度における研究の基盤をなすものである。まず、個体数の側面だけでなく、期間の数という面からも充分な大きさのデータが確保できたことにより、パネルVARのような、時系列方向にある程度のサンプル数を必要とする手法を応用することが可能になった。さらに、2017年3月期の決算情報が利用可能になるのを待ってこれを現在のデータセットに統合すれば、マイナス金利政策導入以降に限った銀行行動の分析が充分可能になる。これによって、日銀当座預金の一部にマイナスの付利が導入されて以降の金融政策の効果について新たな知見を得ることができると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度はこれまでに構築したデータセットを拡充し、パネルデータVARモデルによる銀行行動の分析を行う。これまでに用いてきた伝統的なパネルデータ分析の計量経済学的手法では、変数間が時間を通じてお互いに影響を与え合っていく様子を正確にとらえきれないという欠点があった。上記の手法はその問題点を補うものであり、新たな知見をもたらしてくれるものと期待される。またこの手法によって、銀行行動における構造変化の有無を再検証する。最初はこれまで本プロジェクトで行ってきたのと同じように、サンプル期間を2つないし3つに分割したうえで個別に推定を行い、サブ期間の間で特徴的な変化がみられるかを検証する。しかし個々のサンプル期間があまり短くなってしまうと、上記手法の長所が生かされなくなってしまう恐れがある。そこで次の段階として、近年開発された、時間を通じた係数の変化を許容する手法を応用する。これにより、サンプル期間を区切ることなく、構造変化の有無を検証することが可能になる。以上の研究から得られた成果をできるだけ早期に論文の第1稿としてまとめ、国内外の学会・研究会に投稿する。平成30年度中には国際的査読誌に投稿することを目指す。 これらの作業と並行して、平成27年度の研究成果を中心にまとめた英語論文(すでに国内外で報告済み)の改訂作業を終わらせて、国際的な査読誌に投稿する。平成28年度の研究成果をまとめた日本語論文を国内の学会等で報告し、専門家から集めた意見をもとに改定を進め、これを国内の査読誌に投稿する。またこの研究で得られた成果をさらに発展させた英語論文を執筆して、国外の学会等に投稿する。改訂作業を進め、平成30年度の早い段階で国際的査読誌に投稿できるようにする。
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Causes of Carryover |
高麗大学での研究会報告を含む海外出張において、韓国側の財政的支援を得ることができた。大学院生をリサーチアシスタントとして雇用することを考えていたが、どの学生も多忙になってしまい、雇用することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画上予定されているパネルデータVAR分析は計算機への負荷が大きいので、老朽化している一部計算機設備を更新する。またソフトウェアも最新のものにアップデートする。平成29年度は研究成果の取りまとめ、公表の時期にもあたるので、英文校閲料、学術誌投稿料、学会参加費などに充てる。
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