2015 Fiscal Year Research-status Report
人口変動、経済成長及び所得格差の相互依存関係に関する理論的研究
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15K03431
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中村 保 神戸大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (00237413)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 経済成長 / 人口変動 / 代替の弾力性 / 時間選好率 / 資産蓄積 |
Outline of Annual Research Achievements |
時間選好率が最も低い個人が長期的にはすべての富を独占するというラムゼイの推論(Ramsey's Conjecture)に関して、Becker(1980)、Mitra and Sorger(2013)、Tsukahara(2015)などを中心にこれまでの研究を詳細に再検討し、時間選好率、異時点間の代替の弾力性などの個人の選好を表すパラメータが資産蓄積において果たす役割の重要性が、経済の発展段階や成長速度によって異なることが分かってきた。そこでまずパラメータが与える効果の違いを明示的に考察できる動学的一般均衡モデルを構築し、それらの変化によって起きる均衡経路の変化についての解析的な分析を行った。個人間の資産シェアの逆転が起きるなど、これまでとは異なるいくつかの興味深い結論が得られた。しかしながら、結論の頑健性を確認するにはさらなる分析が必要である。 Stone-Geary型の効用関数の下では、消費と労働の間の代替の弾力性や現在と将来の消費の間の(異時点間の)代替の弾力性が所得水準とともに変化することに注目した世代重複モデルを構築して、出生率の変化によって惹き起こされる人口変動と経済成長の関係について分析を行った。Galor and Weil(1999,2000)や Jones(2001)なども、この性質に注目して経済発展過程における人口動態(Demographic Transition)を説明することを試みているが、彼らのモデルはかなり複雑で拡張するのが難しい。これに対して、ここで構築した動学的一般均衡モデルは、枠組が簡単であるため拡張可能性が高いと同時に、定型化された人口動態だけではなく、急速な少子高齢化などような他のさまざまな人口動態の説明にも有用である。この点については、解析的な分析とともに簡単な数値計算も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初立てた初年度の研究計画と比較してみると、まず基礎的な文献の収集及びその検討についてはほぼ計画通りであり、先行研究に関する多くの知見を得ることができた。また、人口変動や資産格差に関する動学分析については、最新の論文やワーキング・ペーパーの収集を行い、それらについて予定通りに詳細な検討を行うことができた。 本研究の中心である動学的一般均衡理論を用いた分析についても、当初の予定通りいくつかのモデルを構築し分析することができた。それによって今後の研究の核となるような2つのモデルが構築でき、次年度以降に続く分析を始めることができた。具体的には、時間選好率、異時点間の代替の弾力性などの個人の選好を表すパラメータが資産の蓄積に与える効果の違いを明示的に考慮できるラムゼイタイプのモデルを構築し、それらのパラメータの変化によって起きる均衡経路の変化について解析的な分析を行った。また、簡単な枠組と拡張可能性がある世代重複モデルを用いて人口変動と経済成長の関係について解析的分析と簡単な数値計算を行った。今後はこれらの結果を論文にまとめ、次年度以降学会などで成果発表を行う予定である。 これらの研究状況を総合的に勘案し、計画初年度の達成度として「おおむね順調に推移している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度以降は、まず前年度に構築した動学的一般均衡モデルをより良いモデルへと修正・拡張し、それらを用いてより詳細な分析を行っていく予定である。具体的には、(1)時間選好率、消費と労働の間の代替の弾力性、消費の異時点間の代替の弾力性などの個人の選好を表すパラメータが資産格差の変動に与える効果、(2)これらのパラメータが人口変動と経済成長との間の関係に及ぼす影響、について最初に解析的な分析を進め、次に数値計算やシミュレーション分析を行って、頑健でかつ豊かな結論を導出し、それらが持つ経済学的含意について検討していきたい。 出生率の低下と格差の拡大という問題において日本よりも深刻な状況にある韓国で、それらを重点的に研究している韓国の研究者(延世大学校のTae-Jeong Lee教授、梨花女子大学校のKiseok Hong教授など)と積極的に意見交換を行いながら研究をすることにしている。また、必要であれば共同研究を行いたいと考えている。海外の研究者との交流は、モデル分析の結論がどの程度の頑健性や一般性を持っているのかを確認・検討する上で重要であるだけではなく、本研究を将来にわたって発展させていく上でも不可欠であると考えられる。 上記のような分析や研究交流を通じて得られた結果を論文にまとめ、まずは学内外の研究会やセミナーなどや国内及び海外の学会で発表し、出来るだけ多くの研究者の方々からコメントやアドバイスを頂く予定である。それらを活用して論文を改訂し、平成28年度中には国内あるいは国外の査読学術誌への投稿を始める予定である。
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Research Products
(6 results)