2016 Fiscal Year Research-status Report
ロシアの客観的・主観的厚生の格差に関するミクロ計量分析
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15K03437
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
武田 友加 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (70376573)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 貧困 / 家計調査 / 社会保護 / 所得移転 / 子ども / 高齢者 / ロシア |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は,ロシアにおける客観的厚生格差に関する研究をさらに進めた。平成27年度の研究では,ロシア全国規模の家計調査データを用いた実証結果に基づき,移行不況期(1990年代)と移行不況期後(2000年代)のロシアにおける客観的貧困のプロファイルを明らかにした。その上で,移行後に誕生したロシア国家社会扶助法(以下,社会扶助法)の形成過程を丹念に辿ることから,現行の社会扶助法はソ連時代の特権(privilege)の色彩が強いことを明らかにし,現代ロシアの貧困層をターゲティングする上で制度上の欠陥があることを指摘した。 平成28年度は,上述の実証研究と制度研究の結果を踏まえ,ロシアの社会保護制度が貧困家計を上手くターゲティングできているかどうかについて,ロシア全国規模の家計調査データに基づく実証分析を試みた。なお,本分析の主な実証結果は,(1) 社会扶助を含めた公的移転の貧困削減効果は存在する,ただし,(2) 私的移転の貧困削減効果と比べると,公的移転の貧困削減効果は小さい,また,(3) 公的移転の貧困削減効果は子どものいる家計ではなく,高齢者のいる家計で存在する,というものである。これらの一連の実証結果は,ロシアの代表的貧困家計は子どものいる勤労者世帯であるにも関わらず,社会扶助は高齢者世帯に支給される傾向が強いことを示している。このようなターゲティングの失敗が起こるのは,社会扶助法がソ連時代の特権の色彩が強い制度であることが原因と考えられる。また,制度的なターゲティングの失敗は,国内の所得格差を改善する方向には向かわないと考えられる。 以上の研究成果の一部を,国際学会(Western Economic Association International)において報告した他,国内の学会・研究会においても報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果の一部を,国内外の学会・研究会において報告した他,学術誌への論文投稿の計画を進めている。以上の点から,本研究は概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,平成27年度および平成28年度に実施した研究成果の総括を目指す。特に,平成28年度に実施した研究成果をまとめた論文の推敲をおこない,学術誌に投稿する。また,平成29年度も,現地感覚と実証分析の結果にずれがないかどうかを調べるために,ロシアへの出張も実施する。
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Research Products
(3 results)