2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K03441
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
森田 雄一 名古屋市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (30285225)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 開発援助 / 所得分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、先進国が途上国に対して実施している開発援助についてとりあげ、これを効率的に実施する手法について研究することである。特に援助受け入れ国のおかれた様々な要件の違いに着目し、これらが援助の効果に対してどのような影響を持つのかを検討する。具体的には貧困の程度、所得の分布状況、人口の変化に代表される経済環境の違い、政治の安定性等に着目することになる。したがって研究全体を通じて重要となってくる要素は、異質な個人、あるいは異質な国を前提とした援助の効果を検証するという点である。 研究二年目の本年度の目的は、初年度に引き続き所得分布を考慮した理論モデルを構築することである。現状は、援助受け入れ国において、所得層が二分されているケースを(豊かな層と貧しい層)前提としてモデルを構成している。前年度からの改良点は援助の形態として、従来からの単なる所得移転としての位置づけだけではなく、子供への直接的な援助の意味合いも持たせたことである。この点は、子供の出生数に対して正の影響をもたらすことになると同時に、現実の援助の形態を反映している。また二点目の改良点は児童労働を明示的に取り込もうとしている点である。援助を受けなくてはならない貧しい国では当然のように子供は働き手としてカウントされているため、教育等へのアクセスが必ずしも容易ではない。 したがってそれぞれの所得階層に属する個人は、二期間生存し、児童労働を考慮に入れながら自らの教育投資水準と子供を何人持つかの選択を行う。 その結果、豊かな階層においては貧しい階層より多くの教育投資を行うことが、また両所得階層における子供の数は、どちらが多いかについてはモデルのパラメータに依存する可能性があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究二年目の本年度の目的は、初年度に引き続き所得分布を考慮した理論モデルを構築することである。現状は、援助受け入れ国において、所得層が二分されているケースを(豊かな層と貧しい層)前提としてモデルを構成している。前年度からの改良点として、援助について所得移転のみではなく、子供への援助という形を新たに取り入れ、また援助受入国でしばしば問題とされる児童労働も加味した分析をおこない一定の結果を得た。この点は現実的な政策分析を考える上で重要な視点を提供している。 しかしながらこれらの分析では二つの課題が出てきている。 一点目は定常状態における動学的な分析が容易ではない点である。豊かな層と貧しい層への帰属が個人の選択によって決定されるが、それはワンショットでの選択であり、時間経過の中でその選択行為の帰結を確認する必要がある。 二点目は今後のシミュレーションで用いるパラメータについてである。両所得階層における子供の数は、どちらが多いかについてはモデルのパラメータに依存する可能性があることが理論上指摘されているが、途上国における教育の効率性等を反映させるパラメータを慎重に想定する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
基本計画については大きな変更点はない。ただし二年目に明らかになっている課題を踏まえながら三年目の研究に取り組むことが重要である。 一点目はモデルの動学的性質を明らかにすることである。すでに一時点における個人の選択結果を時間経過の中で動学的に反映させる方法として、小国モデルを仮定することで利子率を一定にした世界を前提とした分析を進めることを想定している。経済変数間の比率を一定とすることにより定常状態での性質を解析することに近づくことができる。 二点目は異なる経済環境を持つ国を想定した上でのシミュレーション分析を行う際のパラメータ設定である。モデル分析に対応したパラメータの設定のために簡単な実証分析を事前に行うことも一つの手法と考えられる。 またこれらの分析の過程で、さらに援助の用途を広げた検討を行いたい。これまで援助の位置づけを単なる所得移転から子供への援助に拡張してきた。このことは個人の教育投資、出生数に影響を与えてきた。これ以外にも公共財の供給等の効果分析を行うことは意義深い。
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