2015 Fiscal Year Research-status Report
産業集積の広域化に関する日中比較研究―京浜地域と長江デルタ地域の事例
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15K03457
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
大橋 英夫 専修大学, 経済学部, 教授 (30245948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠山 浩 専修大学, 経済学部, 教授 (90553644)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 産業集積 / 中小企業 / 経済政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究活動は、おおむね次の3点にまとめられる。 第1は、基礎データの収集・分析である。京浜地域の「産業集積の広域化」については、戦後日本の産業発展研究の一環として、これまで多方面で研究がなされてきた。平成27年度には、既存の研究のレビューに努めるとともに、基本的な統計データの種類と所在を確認した。同時に、長江デルタ地域に位置する上海市、江蘇省、浙江省、安徽省の産業集積に関する基礎統計の整理に努めた。 第2は、京浜地域と長江デルタ地域の産業発展に関連するフィールド調査である。まず本研究の対象地区ともいえる京浜地域の自治体と中小製造業を中心とする地元企業に対するヒアリング調査及び意見交換は、ほぼ経常的に実施している。また京浜地域から域外に移転した企業に対する調査も実施した。平成27年度には、富山県氷見市(平成27年7月)、岩手県北上市(同8月)、北海道江別市(平成28年3月)の企業訪問を実施し、同時に各市役所・商工会議所と意見交換を行った。そして本研究チームが従来から現地調査を進めてきた長江デルタ地域(上海市、蘇州市、無錫市)に加えて、同じく「産業集積の広域化」がみられる中国のもうひとつの産業発展のセンターである珠江デルタ地域の中核都市である深セン市の企業訪問を実施し、同時に深セン・香港の金融機関・研究機関において長江デルタ地域との比較・対照に関する意見交換を行った(平成27年11月)。 第3は、これまで共同研究を進めてきた京浜地域の自治体との意見交換である。中小製造業の集積がみられる川崎市の経済労働局とは頻繁に意見交換を行っている。また平成27年12月には、かつて視察した常州市武進区の武進経済開発区・常州西太湖科技産業園の代表団の来日に際しては、その訪問を受け入れ、川崎市を含めた意見交換の機会をもった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の主要な研究活動は、まず京浜地域と長江デルタ地域の「産業集積の広域化」の実態把握である。なかでも、基礎データの収集・分析に時間と困難が伴う長江デルタ地域のデータ収集・分析を重点的に実施した。しかしながら、上海市を除く、江蘇省、浙江省、安徽省の省レベルの「統計年鑑」では、すべての省・市の地区級市レベルの産業動向に関する基礎データが必ずしも掲載されているわけではない。また上海市に関しては、市轄区の統計は把握できるが、行政区画の変化に留意する必要がある。 そこで本研究では、まず「工業統計年鑑」や産業別資料を用いて不足部分を補完した。また対象期間を若干遡ることになるが、企業レベルのデータベース(Hua Mei Information, Chinese Industrial Enterprises Database)を用いて、全体像を把握するための基礎データの整理に努めた。ここでは、県レベルの所在地をもとに、基礎情報(企業数、従業員数、工業総生産、工業販売額、売上高、輸出、資産総計)の初歩的な統計処理を行い、次のような知見を得ることができた。 長江デルタ地域の中心に位置する江蘇省に関していえば、①長江南岸の蘇南地区から、長江北岸の蘇北南部地区、さらに長江に接していない蘇北北部地区への製造業の移転が進行していること、②かつて省内最大の工業基地であった南京地区の製造業の地盤沈下、あるいは蘇州地区への産業移転の傾向がうかがえた。このような基礎データの整理から、かつての京浜地域と同様に、長江デルタ地域においても、産業移転の進展が認められること、しかしそれは移転後、従来の産業がまったく姿を消してしまうわけでなく、「産業集積の広域化」として進展していることが認められた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究活動の課題としては次の点があげられる。 第1に、基礎データの収集・分析では、長江デルタ地域については基礎データの収集・分析を進め、その可能性と限界を検討してきた。ただ、基本的にデータ収集作業そのものを要しない京浜地域のデータ分析作業は、今後さらに進めていく必要がある。戦後日本の産業発展における京浜地域の「産業集積の広域化」の過程を把握するためには、京浜地域の産業構造・立地の変化を確認するとともに、京浜地域の「産業集積」が北関東・甲信越・東北へと「広域化」してきた過程をデータ的に確認する必要がある。データの種類や所在は確認できてはいるが、「広域化」実証のための方法論については、さらに検討を進める必要がある。 第2に、産業集積の実態把握では、基礎データに基づく実態把握をより容易にするために、データ・統計処理の結果のプレゼンテーション方法の検討をさらに進める。なかでも、従来から検討を進めてきた地理情報システム(GIS)の導入・構築作業に着手する。この分野での関連ソフトウェアの比較・応用可能性を検討し、具体的なアウトプット・イメージを作成する。 第3に、経済統計では把握し難いレベルの産業集積については、引き続き代表的な事例をフィールド調査で補完する。本研究チームとしては、長江デルタ地域の上海市、江蘇省については一定の調査実績を有している。しかし浙江省については、上海市に隣接した平湖、嘉興市の開発区・企業に対するフィールド調査を実施したことがあるものの、製造業の中心地区ともいえる杭州、寧波、温州の調査経験はいまだ希薄である。これら地域の産業発展と上海地区の「産業集積の広域化」との関連性の考察を含めて、浙江省のフィールド調査の実行可能性を検討することとする。
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Causes of Carryover |
中国経済(特許)関連データベースの存在は承知しているものの、入手方法や日本における代理店が確認できなかったために、購入・購読にいたらなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度には、上記データベースの購入・購読を予定している。
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