2016 Fiscal Year Research-status Report
技術が資本に体化された下での技術転換に関するミクロデータ分析
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15K03459
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
中村 豪 東京経済大学, 経済学部, 教授 (60323812)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 技術進歩 / 修繕 / 資本減耗 / 生産性 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、主として前年度中に収集したデータを用いて、修繕と生産性の関係を推定する作業を中心に研究を進めた。修繕が生産性に及ぼす影響は、それによって有効な資本ストックが増える、ないし資本減耗の程度を緩和することを通じて生じる。データの性質上、資本ストック水準は観測期間内においてほとんど変動しないため、一種の固定効果のように扱われ、資本ストックを明示的に変数に含めるわけではないが、労働者数や経験の蓄積、経年使用による資本減耗、および各期の稼働率を考慮した生産関数を推定したところ、修繕強度が生産に有意に正の効果を持つことが観察された。生産関数推定一般に検討すべき内生性の問題については、固定効果やラグ付き内生変数を操作変数に用いる手法によって対処した。その結果、いずれの手法によっても、定性的には同様の生産関数が推定された。 さらに本研究では、修繕強度の決定において、生産と関連する点にも着目している。先行研究においても修繕は技術的・工学的な減耗のみに依存するのではなく、修繕に資源を投下することで得られる収益の大きさに依存していると考えている。そのため、資本ストックの生産性が高いと修繕のインセンティブも高まるといえる。この点を明示的にモデルに盛り込もうとすると、動学的な要因を考慮することになって、モデルの扱いやすさに支障を来たすことが予想される。従って、ここでは修繕強度を状態変数の多項式として近似し、誘導型として推定することを試みている。推定によって得られた関数からは、工場ごとの修繕の水準の差や、その時系列的な変動を一定程度よく再現することができた。また、少なくとも観測されたデータ周辺では、概ね労働者数が多いほど修繕が盛んに行われる傾向にあることも分かった。この点は、資本ストックの生産性が高いほど修繕を行うという理論的な予測と整合的である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度中にデータを収集し、2016年度は文献調査の結果も踏まえて、各工場における生産と修繕の意思決定のあり方を示す関数を、それぞれ計量経済学的な手法によって捉えた。内生性の問題など、予想される計量経済学的な課題についても対処した結果、生産関数についても、修繕の意思決定についても、頑健な関数が得られている。また、そこから示唆される関数の性質は、理論的な予測と整合的であることも分かった。これにより、さらに技術転換に伴う内生的な資本減耗を分析するための基礎が固められてきたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、使用する技術を所与としたもとで、生産や修繕がどのように行われるかを、頑健な形で推定できたといえる。今年度は、技術転換がこれらの活動に及ぼす影響を、生産と修繕の相互依存関係を織り込みつつ明らかにしていくことを目指す。この点については、生産関数が工場別に得られていることから、工場間での最適な資源配分を考えることができるというのがポイントになると考えている。技術転換のタイミングによって、最適な生産や修繕の動向が変化するはずであり、この情報から、旧技術を体化した設備が技術転換の結果どのように減耗するものなのかを明らかにできるものと想定している。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた資料等が、年度末に在庫切れとなっており、その入荷を待つことにしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由であるため、今年度入荷し次第支出するものとする。
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