2017 Fiscal Year Research-status Report
中国における戸籍制度改革、農民工の市民化と都市化の社会経済学的研究
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15K03482
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
厳 善平 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 教授 (00248056)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中国 / 戸籍制度改革 / 人口移動 / 都市化 / 農地制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度に、主として下記のような研究活動を行った。第1に、上海社会科学院城市与人口発展研究所と行った共同研究の成果から、以下の4つのテーマを取り上げ、2017年度中国経済経営学会全国大会の分科会で報告した。すなわち、上海市製造業における雇用状況および今後の展望、人口流入規制下における農民工の就業と社会保障、上海市における高齢流動人口の暮らし、および上海市における農民工子弟の教育問題、である。第2に、2017年11月に、上海市・江蘇省・安徽省における戸籍制度改革、人口移動および都市化の現状について現地調査を実施し資料収集を行った。第3に、2018年3月に、農民工を多く吸収している広東省珠江デルタ地域を訪問し、改革開放の最前線とされたこの地域の都市化政策や人口流動の実態について専門家との学術交流、資料収集を行った。第4に、全国流動人口調査の関係資料や中国人民大学が実施した中国版総合社会調査(CGSS、2015年)の個票データを収集した。 この間、人口センサス、個票データおよび現地調査の一次資料を用い、中国における戸籍制度改革、農民工の市民化および都市化の展開に関する実証分析を続け、以下のような暫定的知見を得ている。すなわち、市場経済化の進化、農村労働の枯渇が象徴するような二重経済構造の転換を背景に、「農業」から「非農業」への戸籍転換、農村から都市への戸籍の転出入の規制緩和を主内容とする戸籍制度改革が漸進的に行われ、2015年に「農業」「非農業」といった戸籍の区分自体が撤廃されるに至った。近年、戸籍に絡む教育や就職、社会保障における農民差別も是正されつつある。農民工の市民化および新型都市化は目覚ましい進展を遂げている一方、上海などの大都市を中心に移住規制が依然として厳しく、新旧住民による二重構造の解消は長い時間を要する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地でアンケート調査の委託費が高騰したことに加え、海外からのアンケート調査自体が難しくなっている中でも、調査対象やサンプル数で工夫して、できるだけ現地の一次資料を収集するように努めた。 行政機関、大学による全国規模の様々な専門調査が継続的に行われ、条件付きだが、共同研究等の形で調査資料の利用が可能となっていることも今の中国の現状である。こうした状況変化に応じ、現地の専門家との学術交流を行い、一次資料の収集を心掛け、当初の研究計画を実行に移している。
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Strategy for Future Research Activity |
上海市で行った小中学校生徒の学びと暮らしに関するアンケート調査(2017年2月)の個票データを解析し、農民工子弟の学校教育の実態分析を通して、農民工の市民化にかかわる諸問題や課題を明らかにする。 全国流動人口調査の関係資料を利用し地域間における人口移動の実態、人口の都市集中、および農民工の都市社会への溶け込みについて定量的分析を行う。 中国人民大学が行った中国版社会総合調査(CGSS)、中国社会科学院等が行った中国家計所得分配調査(CHIPs)などの個票データを積極的に利用し、引き続き、農村都市間における人口移動の実態とメカニズムに関する理論的実証的研究を深める。 研究成果を中国経済経営学会、日本現代中国学会、アジア政経学会などで発表し、論文を国内外の学術雑誌に投稿し発表する。2-3年のうち、研究成果を学術書にまとめ出版する。
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Causes of Carryover |
上海市における調査委託費相場の急上昇などの理由で、当初予定していたアンケート調査の規模、対象、時期を調整せざるを得なくなった。変更を余儀なくされた部分の情報を補うため、関係機関が実施した同類調査の関係資料の収集に努めた。本研究課題の解明に必要な情報は、現地調査、独自のアンケート調査、および既存データの発掘を通してほぼ収集できているが、データ解析に想定以上の時間を要している。 残った研究助成費については、当初計画の通り、研究成果の作成・発表などで活用する予定である。
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Research Products
(5 results)