2017 Fiscal Year Research-status Report
経済発展に伴う不平等の変化と有効な再分配政策に関する研究
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15K03487
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
春日 秀文 関西大学, 経済学部, 教授 (40310031)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 所得不平等 / 所得分配 / 公共支出 / 再分配政策 / 人口転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、所得不平等の発生と変化のメカニズム、格差発生の理由に応じた望ましい所得再分配政策を明らかにすることを目的としている。平成29年度は、前年度までに論文としてまとめた二つの実証研究の改訂、所得分配の変化を説明する理論モデルの開発を行った。 平成28年度から取り組んでいる所得分配の決定要因の実証研究では、不平等指標データの国際的な比較可能性の問題を回避するため、日本の都道府県レベルのデータを用いた。高齢化、教育水準、人口移動、地形、気候などの様々な変数を用いて、推定式の特定化を検討した。推定における内生性の問題に対応するために、日本の地方財政制度の特徴から操作変数を選択し、適切な推定が可能となった。この推定より、所得が低い地域では1%の公共支出増加が0.2-0.3ポイントのジニ係数低下につながることが示された。 平成27年度から継続している所得分配の変動を説明する理論モデルの開発については、一定の成果が出たため、論文にまとめた。このモデルでは、乳幼児死亡率を外生変数とし、各家計が出生率と教育水準を決定する。乳幼児死亡率が高い国では、出生率が高くなり、貧困の罠が発生する。さらに、高い死亡率によって、非熟練労働者と熟練労働者の賃金格差が大きくなることが説明される。重要な結果は、乳幼児死亡率が高い国でそれが低下するとき、出生率低下と教育水準向上が見られるが、その結果として労働者の賃金所得が停滞することである。これにより、成長とともに格差が拡大する国と格差が縮小する国が存在することを説明可能である。 加えて、平成27年度以前から取り組んでいた所得分配と援助の実証研究を改訂した。この研究では、クロスカントリー・パネルデータを用いて、社会分野への援助配分が大きいほど格差是正が進むという傾向を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終目標は、地域ごとの所得不平等の違いがどのような要因で決まっているのかを明らかにし、要因に応じた適切な格差是正策を提示することである。平成29年度には研究実績の概要に示したように3つの研究を行った。以下はそれぞれの具体的な進捗状況である。 日本の都道府県レベルのデータを用いた所得分配の決定要因の実証研究では、公共支出が所得格差に与える影響を推定した。平成28年度において一定の結果を得ていたため、平成29年度は推定結果の頑健性チェックを行い、論文としてまとめた。また、内生性の問題に対応するための操作変数を、日本の地方財政制度の特徴を利用して選択したため、その詳細な説明を書き加えた。ここまでの成果をまとめ学術誌に投稿したが、現時点では採択には至っていない。 所得分配の変動を説明する理論モデルの開発では、乳幼児死亡率の低下によって出生率が低下する人口転換に注目し、所得分配の推移を説明しようと試みた。人口転換と経済成長の関係、および経済成長と所得分配の関係についてはそれぞれ膨大な文献があり、それらを詳細に検討して、モデルの独自性の説明を工夫した。モデルから得られた結果の中で、資本蓄積が進むにもかかわらず熟練労働者の賃金所得が増加しないという点は独自性があり、重要な含意があるため、その点を強調している。平成30年度の前半に英文原稿を完成させ、学術誌に投稿予定である。 所得分配と援助の実証研究では、平成28年度までに、社会分野の援助配分を高めることで格差が是正されることを理論的に説明し、経験的証拠を加えて論文としてまとめていた。これまで、学術誌への投稿を繰り返してきたが、採択に至っていない。平成29年度は、新しいデータセットを作成し、図を書き加えるなど大幅に改訂し、再投稿を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
都道府県レベルのデータを用いた所得分配の決定要因の実証研究ついては、操作変数の選択について説得力が十分でなかったため採択に至らなかったと考えられる。この点への対応として、日本の地方財政制度を詳細に検討し、より説得力が高い操作変数を検討する。新たな操作変数を用いて推定を行い、どのような分野の公共支出が効果的であったかについて結果をまとめて再投稿する予定である。 所得分配の変動を説明する理論的研究については、モデルは既に完成している。この理論的研究は、人口経済学の分野に関わるものであるため、その分野の研究者からのコメントを参考に修正する。投稿先を検討し、それに応じて適切な論文を引用した上で、できるだけ早く投稿する。その後、モデルから得られた理論仮説を検証する新たな実証研究を検討する予定である。 所得分配と援助の実証研究については、投稿を続けてきたが未だに採択されていない。既に多くの学術誌に投稿してきたため、現在投稿している学術誌に採択されなかった場合、今後の投稿先が限られてくる。その場合の対応としては、データの再収集および推定方法の再検討を行い、問題設定の変更を含めた大幅な改訂によって新たな論文として完成させる予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、一部の論文の投稿が次年度となったためである。これにより、投稿料および英文校閲費について、次年度の使用額が生じた。 研究経費は主に論文・図書の購入、データセット作成に必要な資料やデータベースの購入、データ加工に必要なソフトウェアの購入、英文校閲費、論文投稿料および研究打ち合わせ・成果報告のための旅費に用いる。平成30年度の使用計画は以下の通りである。 1) データセット作成のための資料・文献やデータベースを購入する。必要に応じてデータ加工のための研究補助を利用する。また、統計的手法に関する図書・データの加工・統計処理に用いるソフトウェアの購入費用および年間保守費を計上する。2) 一定の成果を得られた時点で論文としてまとめ報告する。論文は英文学術雑誌に投稿するため英文校閲の費用および投稿料を計上する。また、成果報告および論文の共著者との打ち合わせのための旅費を計上する。
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