2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K03512
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小原 美紀 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (80304046)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 労働経済学 / 若年失業 / 若年雇用 / ジョブマッチング / 就業トレーニング / 日本 / 東南アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,以下の3点について研究を進めた.第一に,大阪わかものハローワークにおいて,就業トレーニング(就活クラブ)に参加する若年求職者を対象に,毎月3日間の追跡調査を11か月にわたり行った.この調査に基づき,(1)若年就業トレーニングが労働意欲に与える効果の計測,(2)若年就業トレーニングが就業確率に与える影響の検証,(3)トレーニングへの参加が若者の経済厚生に与える影響の検証を行った.成果は現在論文にまとめている. 第二に,日本の若者のジョブマッチングの問題点を洗い出すために,東南アジアにおける若者の求職活動の実態を調査した.具体的には,シンガポールで行われた日系企業の説明会・面接会において東南アジア諸国連合の大学生450名にアンケート調査を行い,求職活動について調査した.同時に,日系企業の人事課および総務課に若者の雇用問題についてヒアリング調査を行った. 第三に,若年層の失業者および非正規労働者の経済厚生に関する分析成果を発表した.経済厚生(経済的な豊かさや貧しさ)は若年の労働意欲を削ぐ原因となるとともに,労働意欲が経済厚生を左右する結果にもなり得る.若年雇用の問題を分析するにあたり,彼らの経済厚生の分析は必要不可欠になる.論文“Effect of Unemployment on Infant Health”では,若年層の失業や非正規労働の増加が出生児の健康に悪影響を与えることを示した(Kohara, Matsushima and Ohtake, 投稿中).「非正規労働者の増加と格差の拡大・貧困の増加」では,若年非正規労働者の増加が若年層の経済厚生格差を拡大していることを示した(小原,JP総研リサーチ).若年層の低廉な労働状態と経済格差の関係については,一般紙でも成果を公表した(小原,日本経済新聞経済教室;大竹・小原,中央公論).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,3年間で「初職の定着率を高めるためにはどうすればよいか」および「学卒3年後の正規労働雇用率を高めるために有効な労働政策とは何か」を明らかにすることが目的である.これらの質問に答えるために,労働供給側である若年求職者へのアンケート調査と,労働需要側である企業へのヒアリング調査を行うことを予定している.平成27年度は,このうち前者の調査を行った.具体的には,大阪わかものハローワーク(大阪梅田)において行われている若者向け就業トレーニング参加者を対象に,平成27年5月から平成28年3月までの11か月間にわたって調査を行った.このようなトレーニング参加者に対するアンケート調査からトレーニングの効果を検証する方法は,参加を希望する(やる気のある者)だけが調査対象になるというサンプルセレクションが常に問題となる.そのため,調査の実施にはいくつかの工夫を施した.第一に,このトレーニングが毎月2週間にわたって行われることを利用して,同一個人のトレーニング期間中の変化を3日間にわたり追跡調査した.第二に,大阪わかものハローワーク来訪者の中でこのトレーニングに参加していない者についても調査を行い,トレーニング参加の意思決定をモデル化することで計量的にセレクションの問題を解決できるようにした.第三に,トレーニング参加者だけでなく,トレーニングを運営しているカウンセラー(4名)にもアンケート調査を行い,参加者の主観的な回答バイアスを取り除けるようにした.第四に,このトレーニングに参加した後についても追跡調査を行い,トレーニングの事後変化を評価できるようにした.第五に,このような日本の若者のジョブマッチングの問題を浮き彫りにするために,他のアジア諸国における若者の就職活動の実態について調査を行った.すでに,この調査を用いた計量分析を終了しており,現在論文として執筆しているところである.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,大阪わかものハローワークにおいて行った調査結果を,「若年就業トレーニングは若者の労働意欲を高めるのに有効か」,「若年就業トレーニングがジョブマッチングに与える影響」および「若年就業トレーニングによる二次的効果-トレーニングが若者の健康状態に与える影響」という3本の論文としてまとめる.これらを国内の学会や専門分野の研究会で発表する.もらったコメントに基づいて論文を修正し,海外の学会への投稿につなげたい.また,得られた研究成果を政策に活かしてもらうために報告書としてまとめて,厚生労働省職業安定局,大阪わかものハローワーク,大阪府労働商工部など実際にジョブマッチングに携わっている政策機関において,研究成果の政策インプリケーションを報告したい. さらに,日本の問題点を炙り出すために行った東南アジアでの分析結果は,「東南アジアにおける日系企業のジョブマッチングの実態」としてまとめる.この結果を,アジア諸国の大学や学会で発表したいと考えている.この結果は日系企業が人事や雇用制度を考える際にも活かしてもらえると考えられるので,報告書としてまとめて,東南アジアにある日本の商工会議所や,JETROなどを通じて公表したいと考えている. 平成28年度は,本研究のもう一つの計画である労働需要側へのヒアリング調査も積極的に進めたい.大阪の企業規模や産業ごとに実態は異なると考えられるので,実態を広く捉えられるように調査したいと考えている.
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Causes of Carryover |
平成27年度は,当初の計画通り,若年求職者に関するアンケート調査を行った.この調査回答を入力する作業およびデータのスクローニング作業を行うにあたり補助員を雇用したが,予想よりも少ない人数と少ない時間で入力作業を終了することができた.これにより,未使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は前年度に収集したアンケート調査の解析と,分析結果を補うインタビュー調査の実施が主な研究となる.平成27年度の未使用額32268円を,解析の補助員とインタビュー調査の補助員を雇用する費用に追加することで,より多くのインタビュー調査を行ったり,より早く解析結果を出すことに役立てる.
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Research Products
(8 results)