2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03512
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小原 美紀 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (80304046)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 労働経済学 / 若年失業 / 若年雇用 / ジョブマッチング / 就業トレーニング / 日本 / 東南アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度に大阪わかものハローワークにて収集したデータ(当該科研費補助金を利用)を使って,平成28年度は2本の論文を執筆した.1本目は,「就職活動支援プログラムが求職者の意識や意欲に与える影響:大阪わかものハローワークにおける「就活クラブ」の事例」である.この論文では,大阪わかものハローワークで行われている就職支援プログラム(「就活クラブ」)が,プログラム期間を通じて労働意欲が高まること,その結果として就職見通しが高まり,実際の就職率も高まることを示した. 2本目は,「就職支援プログラムと若年失業者の健康:大阪わかものハローワークにおけるトレーニング成果」としてまとめた.1本目と同じデータを使いながら,就職トレーニングが就業以外の若者の成果に与える影響を分析した.具体的には,健康状態の改善という副次効果が存在するのかどうかを検証した.分析の結果,就活クラブに参加することで若年失業者の健康状態を改善させることが示された.特に,ストレスや憂うつさ,孤独感が減少していた.さらに,就活クラブ終了後の追跡調査を用いた追加的な分析により,就活クラブを通じた健康状態の改善は,失業期間の短期化すなわち早期就職につながることが示された. このように,若年失業者に対する就職支援プログラムは、若者の働く意欲を高め、彼らを就職に向かわせる効果があるといえる.また,就職支援プログラムは,就業だけでなく精神的な健康状態の改善効果も持つといえる. 2本の論文は,どちらも,プログラム参加者が無作為に選ばれていないことによるセレクションバイアスを取り除くために,調査データの設計を工夫している点,複数の計量分析の手法を用いている点が特徴となっている.また,政府が行う就職支援のプログラム評価を,プログラム期間中の変化を追跡しながら行った日本で初めての研究である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1年目である平成27年度は,アンケート調査の実施を合計11か月間継続して行い(毎月3回を11か月間)行い,多くの標本を得た.2年目である平成28年度は,まず,この調査結果のデータクリーニングと,追跡調査を行った.追跡調査は,就職プログラムへの参加からある程度時間が経った時点で,プログラム終了後の健康状態の変化や就業状況の変化を尋ねたものである.調査は,前年度調査した大阪わかものハローワークで継続して行ったものだけでなく,前年度の調査時点で継続調査への協力を表明してくれていた方にメールを送る形で行った.その結果,多くの方に再調査することが可能となり,より深い分析が可能となった. これらすべての調査を完了した上で,以下の2つの仮説を検証し,2本の論文にまとめた.それらは,「就職プログラムへの参加は就業意欲や就業率を喚起させるか」「就職プログラムへの参加は就業に関する成果以外にも良い効果をもたらすか」である.後者の就業以外の効果としては,若者の精神的な健康状態の改善に注目した. 平成28年度は,両論文について,複数の学会や研究会で報告を行った.そして,いずれの報告でも,聴衆の高い関心を集めることができた.とくに,若年の求職行動を分析している研究者らから発表後も結果への質問を多く受けた.そこで,報告等でいただいたコメントをもとに修正を行い,査読雑誌に投稿した.現在は査読結果を待っている状態である. また,政策担当者の関心も高く,厚生労働省での成果報告や,若者ハローワークや大阪府(しごとフィールド)など若年の求職支援を行っている団体から研究結果の問い合わせを受けた.いくつかの場所では実際に結果の報告も行っており,政策インプリケーションを社会に還元することにも役立てた.
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Strategy for Future Research Activity |
助成期間の最終年である平成29年度は,以下の通り進める予定である. 第一に,現在投稿中の論文について,査読プロセスを経て掲載してもらえるように修正を行う.とくに,就職トレーニングによる若年失業者の就業意欲喚起が見せかけの関係ではないこと(真の因果として政策が効果を持つこと)に疑問を持たれることが多いので,追加分析を行うなどして頑健性を証明したい. 第二に,大阪わかものハローワークで行った調査の中には,まだ分析に使っていない情報が存在している.たとえば,どのようなグループワークをするときに,グループワークの成果が高まるかに関する実験結果を収集している.未使用情報を使った分析が可能であるかについて吟味し,新たな分析の可能性を探りたい. 第三に,2本の論文を整理するにあたり明らかになった日本の若者の求職活動の実態を,他国の若者の求職活動と比較することで浮き彫りにしたいと考えている.これを行うために,平成27年度末,シンガポールにて行われたジョブフェア会場において,参加した東南アジアの大学生に対するアンケート調査を行った.また,大阪大学において,留学生に対するアンケート調査を行った.これら2つのデータを解析することで,日本の若年層特有の求職意欲の阻害要因があれば明らかにしたいと考えている. 第四に,若年向け就職プログラムの就職意欲喚起効果が存在することを,学術研究者に対してだけでなく,政策担当者に対しても示していきたいと考えている.社会の高齢化や健康寿命の進展により,若年向けの政策の重要性は見過ごされることも多い.しかしながら,若者失業者を増加させない政策は,若者本人の長期的な経済厚生を高めるだけでなく,結果的に国全体の社会・医療保障支出を抑制するためにも必要であろう.若年向けトレーニングは実際に効果があることを示した今回の分析結果を,広く社会に伝えたいと思う.
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Causes of Carryover |
今年度投稿した論文は,まだ査読プロセスの途中であり,今年度も修正を続ける必要あがる.修正にあたり,追加的な調査や学会報告旅費,通信費が必要となる可能性があるため,少額であっても次年度に残したいと考えた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
査読付き学会報告に投稿しており,すでに2本のアクセプトを得ている.これらの学会への参加費と旅費に約20万円を,追加的に必要となった調査の実施やデータの入力を行うための人件費に残りの約40万円を使用する予定である.
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Research Products
(8 results)