2015 Fiscal Year Research-status Report
国際制度比較を通じた低確率・大規模災害に対する最適財政支出量に関する研究
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15K03522
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
奥山 忠裕 長崎県立大学, 地域創造学部, 准教授 (20422587)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 災害 / 財政支出 / 便益計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
長期間に及ぶ公共事業には事業の遅延リスクが発生する。特に,長期間未発生の災害に対する防災事業では,発生しない確率が高いと認識される傾向があり,結果,当該事業が遅延する場合がある。この遅延が発生した場合,市民の中には遅延による被災への不安感から負の便益を被る人々が発生する可能性があるものの,この厚生損失は事前の財政支援策に計上されていないため,厚生損失が拡大してしまう可能性がある。 本年度は,コンジョイント分析を用い,津波対策事業の遅延による消費者選好の推計と厚生損失の計測を行った。調査対象者は宮城県の海水浴場の利用者である。宮城県の居住者3,401人に対し,宮城県内の主要25箇所の海水浴場を提示し,最低1箇所利用していると回答した763人から回答を得た。コンジョイント分析に用いるプロファイルの属性は,事業効果として津波災害の死亡リスクの削減率(%),事業の費用(支払意思額;円/年),事業の開始時期(遅延期間;年),支払い・防災効果の期間(年)である。 推計の結果,厚生損失は2年遅延した場合が301円/年~359円/年,4年遅延した場合が848円/年~926円/年,6年遅延した場合が984円/年~1,199円/年として推計された。結果から回答者の死亡リスクの見積もりが低い場合,MWTPの値は死亡リスクおよび世帯所得から影響を受け,高い場合は死亡リスクの影響が強いことが示唆された。 これらの推計結果から遅延無しの便益1,028円,遅延有の便益:138円を引用した場合,遅延の有無の社会的便益はそれぞれ約3億9千万円,5千2百万円と試算される。津波関連事業の例として内閣府の2013年度津波避難対策推進事業(約1.8億円)を取り上げると,この事業をいますぐ行う場合,費用便益比は1を上回るためこの事業は是認され,他方,4年遅延した場合,1を下回るため是認されないこととなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画は,災害リスクに対する制度および社会資本の経済的評価に関する国内・国外の事例の比較研究を通じて,不確実性下の個人行動および災害リスクの調査方法を調査することである。 本年度の計画は4段階に分かれている。第1段階(4月~6月)として,災害リスクに対する制度および社会資本の経済的評価に関する国内・国外の事例の比較研究を通じて,不確実性下の個人行動および災害リスクの調査方法を調査すること、第2段階(7月~9月)として,低確率の災害リスクに関する認知度および個人行動の調査法に関する既存研究の整理と国内の災害発生率に関する情報の整理を行い、それらをもとに実証分析を行うための個人行動のモデル化から静学および動学分析による変数の挙動の確認を行うこと,第3段階(10月~12月)として,前段階の研究を踏まえ,調査対象地の決定,調査票の作成および調査の実施を行うこと,第4段階(1月~3月)として報告書の作成である。 まず、第1段階の調査を行い、現在とりまとめをおこなっている。次に、第2段階について行動モデルの定式化と実証を行った。第3段階として、調査表の作成および実施したため、現在、第4段階にてとりまとめを行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の課題は財政支出に関するシミュレーションモデルの作成である。財政支出を検討する場合,予算の規模と同時に支出の合理性について説明する必要がある。災害の発生が少ない地域では,より合理性のある説明が求められるだろう。そのため,まず,国際的な災害に対する支出の理由を調査し,我が国の支出の判断として適合的か否かを検証する。 計画は申請書のとおりである。第1段階(平成28年度:4月~9月)】では,国外の災害に対する制度と予算規模に関する調査を行い、予算の支出量やその根拠についてまとめる。その後、比較に用いるため国外でのインターネット調査(米国)を行う。要点として,災害に関する国外の制度および予算規模の調査,災害に関する国外の個人行動の調査(前年度第4段階の本調査のものの英訳版),財政支出の(合理的)根拠に対する市民の選好をモデルに反映することである。次に、第2段階(平成28年度:10月~3月)として,国内外の事例をもとに財政支出に関する実証分析モデルおよび地域経済のシミュレーションモデルの構築を行い,(前年度に行った)国内の個人および(今年度の)国外の個人の選好パラメータを統合したモデルの構築を行う。要点として,災害に関する財政支出モデルに関する実証モデルの構築によって財政支出に関する政府行動の分析およびシミュレーションのためのパラメータを得ること,災害リスクへの財政支出に関する実証分析~政府行動のパラメータを得ること,災害の財政支出に対する社会選好を含めた個人行動の定式化を行うことである。
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Causes of Carryover |
為替レートの変動によって学術雑誌の投稿における値段が低下したため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度と同様に国際学術雑誌への投稿に使用する
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