2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K03538
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
高見澤 秀幸 一橋大学, 大学院商学研究科, 准教授 (60361854)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | インフレ / 期待 / サーベイデータ / 資産価格データ / 均衡モデル / リスクプレミアム |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は、サーベイデータと市場(価格)データを用いてインフレ期待の変動メカニズムを明らかにし、その変動に起因するリスクプレミアムを推定することである。両データを統合的に記述できる経済モデルを提案し、それぞれのデータの長所を活かして精度の高い推定を試みるところに本課題の特色がある。 理論面では、消費者の選好を明示した上で価格付けを行う均衡型モデルを開発した。均衡型モデルは、汎用性の高さからデータを統合的に記述するという点では優れているものの、均衡という制約条件の強さから各データを高い精度で説明するという点では難がある。そこで開発したのがこの難点を克服するモデルである。克服の鍵は、消費者の選好が経済状態に応じて変化する性質を取り入れたことである。先行研究にはない当モデルによって、市場価格やサーベイデータに内在する期待を、我々の選好と直接関連付けて論ずる道を切り拓くことができた。当初計画では、均衡型モデルの利用を想定していなかったため、理論面においては大きな進展があったと言える。 実証面では、インフレ見通しに関するサーベイデータの予測力について分析を行った。一般に公開されているサーベイデータは、日本では「EPSフォーキャスト調査」「内閣府消費動向調査」「日本銀行生活意識に関するアンケート調査」があり、米国では「Livingston」「SPF」「Michigan」がある。均衡型モデルの推定にこれらのデータをすべて用いることは困難であるため、予測力の高いデータに絞ることを意図して分析を行った。その結果、日本では、エコノミスト(いわゆるプロ)によるEPSフォーキャストの予測が、内閣府や日銀が集計した一般個人や家計の予測よりも大幅に良いことがわかった。一方、米国では、多数の一般消費者から得た予測の中央値は、プロの予測と遜色のないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論面では、当初計画以上の進展があった。当初計画では、消費者の選好を明示しない誘導型モデルの利用を考えていた。誘導型モデルは、データに対する説明力が高い反面、経済学的含意を得るという点では均衡型モデルに劣る。研究実績の概要で述べた通り、均衡型モデルでも誘導型モデルと同程度の説明力を確保できる目処が立ったため、このモデルを核にして実証分析を進める。 実証面は、ほぼ当初計画通りである。ただし、均衡型モデルを用いることにしたため、モデル推定を含む実証分析において新たに克服すべき課題が浮上した。この点は、今後の推進方法で述べる。
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Strategy for Future Research Activity |
均衡型モデルはより複雑な構造を持つため、実データを用いた推定負荷は必然的に高くなる。従って、データを事前に厳選しておく必要があり、そのためのデータ分析を引き続き行う。さらに、プログラミングについても負荷軽減のための工夫を図る。 大規模な金融緩和政策を導入した中央銀行の役割をモデルに取り入れるという当初計画は、具体的に次の通り実現させる。緩和政策の帰結として短中期のイールドカーブが長らくゼロ近辺に張り付いている状態を説明するために、金利の下限制約(zero lower bound)と金利水準に(非線形に)依存した金利ボラティリティを均衡型モデルに導入する。これによって、ゼロ(あるいは若干の負の)金利の長期化が我々のインフレ期待やリスク選好にどのような影響を及ぼしているかを明らかにする。
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