2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03548
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
清水 順子 学習院大学, 経済学部, 教授 (70377068)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 為替制度 / 為替リスク / 貿易建値 / 現地通貨建て / 基軸通貨 / 直接交換市場 / 決済通貨 |
Outline of Annual Research Achievements |
世界的な金融危機から発生したドルの流動性危機は、アジアにおけるドル依存の為替制度のあり方に疑問を投げかけた。このような現状を踏まえて、本研究はドル依存から脱却し、将来のアジア基軸の候補となりうる円と元が果たす役割について検討し、円の新たな国際化を推進する政策的なインプリケーションを導出することを目的としている。平成28年度は、元の国際化の状況について、RIETIで日本の現地法人対象に行ったアンケート調査を基に実証分析を行った論文を中心に学会報告活動などを行った。論文および学会報告は以下の通りである。 The International Use of the Renminbi: Evidence from Japanese firm-level data, 2016, RIETI Discussion Paper 16-E-033.30 日本金融学会2016年度春季大会(武蔵大学)およびECU-YNU International Conference(7月、横浜) また、昨今ドル基軸からの脱却を政策的に図っているベトナムに対して、現状がどのように進んでいるのかどうかについて、12月に財務省に依頼しヒアリング調査を行った。その結果、国内取引でのベトナムドン利用の徹底という政策によりドン建て取引が増えており、ドル建ての直接投資をドン建てに換える動きや、ドン建て借入の増加傾向があること、現地で活動する日本企業による円建て取引も増えているなどの実態を把握することができた。また、アジアの中のセーフヘイブンとしての円の存在については、一時的な避難通貨としてのみではなく、徐々に外貨準備のポートフォリオの一つとして保有する割合が高まっていることも確認された。 新たな円の役割については、3月に行われたIMFと一橋大学共催の国際コンファレンスで、これまでの研究成果に基づき、アジアにおいて円の新たな役割は何かというテーマで研究報告を行い、各国の政策担当者と議論を深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度はそれまで行ってきた中国人民元の国際化に関する論文を複数の国際コンファレンスで報告し、現在ジャーナル投稿のための改訂作業を行っている。2,3月には財務省外為審の研究のため、中国・香港・タイに出張し、人民元をはじめとする現地通貨建て取引や円建て取引に対する現状を視察した。その結果、アジア各国がクロスボーダー取引での現地通貨利用の重要性を認識し、政策的に貿易や投資における現地通貨利用を推進しており、アジアのドル基軸体制に徐々にではあるが変化が見られることなどが確認された。また12月にはベトナム出張を実施し、アジア新興国での貿易建値通貨選択のヒアリングを行い、ベトナム国内でのドル化がかなり改善されていることも確認できた。このような状況において、日本の金融機関がアジア新興国に積極的に進出し、現地の金融機関と合弁するなどして、質の高い金融サービスの提供を始めており、今後円をどのようにアジアで取り扱っていくかを再考する良い時期となっている。 平成29年度は、9月からのサバティカルを迎え、シンガポールを拠点としてアセアン諸国でのアジア通貨の直接取引の動向や言質通貨建て貿易決済の進捗状況などを調査する予定であるが、これまでの研究成果をもとにアジア各国の研究者と協力しながらアジアにおける円の新たなニーズを探索するとともに、アジアにおける円決済の拡大に向けた政策提言を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度行う研究は以下2つに大別される。 1.RIETIの研究プロジェクトにおいて平成21年から平成26年までに実施された日本企業の貿易建値通貨の選択とリスク管理に関するアンケート調査・インタビュー調査の第3弾を企画するために、まずは主要企業のインタビュー調査を夏まで行い、その成果を踏まえて、新たなアンケート調査を秋以降に実施する。アンケート調査については、経年変化を見るためには、これまでの調査項目を実施することが重要だが、近年注目される新たな論点として、海外直接投資の建値通貨や海外現地法人からの投資収益(配当・利子等)の本国送金における建値通貨や為替リスク管理を質問項目に追加を加えることで、さらに政策提言の充実を図りたい。 2.9月以降滞在するシンガポールを拠点として、東アジア各国に進出している多国籍企業の貿易・資本取引の決済手段としてどの通貨が選好されているか、インタビュー調査とアンケート調査を実施する。これまで国際学会で当研究の成果を報告すると、アジア各国の研究者や政策担当者から同様の調査を行いたいという希望が多かった。日本企業のみならず、アジアに進出する世界の多国籍企業の動向を定期的に精査するスキームを構築することは、今後のアジアの為替制度や通貨安定政策を考える上で、重要な視座となることから、AMROや他国の研究者の協力を得て、是非アジア各国を対象としてアンケート調査を実施したいと考える。 上述の調査においては、円の新たな役割に対する質問項目を入れ、一時的な避難通貨としてのみではなく、徐々に外貨準備のポートフォリオの一つとして保有する割合が高まってきている円のアジアでの利用をさらに拡大するためにはどのような政策が望まれるのかについても考察する。
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Causes of Carryover |
研究企画当初は、当科研費を用いて東アジア各拠点の金融機関に対して貿易・資本取引の決済手段としてどの通貨が選好されているか、中国・香港・シンガポールの日系金融機関にインタビュー調査を行う予定だったが、幸いなことに清水が所属する財務省の外為審議会の委託研究で中国・香港・タイへのインタビュー調査を2016年2月から3月にかけて実施することができたため、科研費利用額が減ったことが主な理由となっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年9月よりサバティカルでシンガポールのAMRO(Asian Macroeconomic Research Office)に滞在し、当研究を進める予定でいる。シンガポールでは、ASEAN諸国を対象とした貿易建値通貨選択と為替リスク管理のアンケート調査を実施したいと考えているが、そのために一部の国でヒアリング調査を行うことを予定している。その際の出張費や現地の研究者との共同研究のための謝金などに使用する予定である。
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