2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03568
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
奥田 央 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 名誉教授 (80092170)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ロシア / 農民共同体 / 村ソヴェト / 選挙 / ネップ / 農業集団化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度には、主として、1920年代の村ソヴェト選挙に関して、それぞれ3週間ずつ2度、モスクワで資料の調査収集をおこなった。国家のアルヒーフ(ロシア連邦国家アルヒーフ)において地方での選挙準備とその遂行の状況を、党のアルヒーフ(ロシア国立社会政治史アルヒーフ)において党指導者の選挙結果に対する評価と対応を、それぞれ分析した。 モスクワの図書館(レーニン図書館、歴史図書館)においては、新聞、雑誌から資料を収集した。同時に努力を払ったことは、ソヴェト選挙を対象としたロシアの若い研究者の博士候補論文を見いだして検討することであった。後者は、最近の傾向を反映して、地域を対象とした研究であるが、1920年代の全体的な構造、動態を考察する上でも、重要な示唆を与えてくれた。 一方、日常的には、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター所蔵のロシアのアルヒーフ資料と、東京大学経済学部図書館所蔵のロシアの新聞の分析に従事した。 このようにして、選挙をとおして農村統治を進めようとする党と、基本的に党の支配を排除して自治を求めようとした農民との対抗の諸局面を選挙キャンペーンの分析を通して解明することが本年度の課題であった。 以上の研究成果のひとつとして、「勤勉な農民」というネップの理念が、1924/25年の2度のソヴェト選挙キャンペーンの過程で党勢力が後退したあと、その状態からの巻き返しのなかで、彼らが次第に敵対視されていく過程を論文にまとめた。別記「『クラーク』と『勤勉な農民』――ネップはあったか――」)がそれである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、農業集団化に向かう1920年代ロシア農村の歴史的な構造を、主として村ソヴェトと農民共同体の関係から解明することであるが、その全体的な見取り図は、昨年度の大きな論文「1920年代ロシア農村の社会政治的構造(1)(2)」において与えることができた。本年度は、そのなかの村ソヴェト選挙について、いっそう詳しい考察を継続した。 村ソヴェト選挙は、党と農民との対抗関係を直接的に反映する場であり、資料的に把握の困難な1921-1923年を除けば、1924/25年に2度(うち1度は部分的なやり直し)、その後、1920年代末までに3度、合計5回おこなわれ、これを研究の具体的な対象とする。昨年度は1924/25年選挙キャンペーンを解明できたという手応えをえたので、本年度は、このうち、1925/26年と1926/27年の2度の選挙キャンペーンを集中的に研究した。 1924/25年の選挙キャンペーンの結果、党による「任命制」にもとづく選挙は劇的に否定され、党・政府は、農民に譲歩するだけではなく、下からのイニシアチヴを体制に統合していくことを目指した。しかし農村の「小ブルジョア的な」勢力がこのなかで増大することを危惧したスターリン指導部は、1926/27年選挙キャンペーンに向けて、選挙権の剥奪によって「小ブルジョア的な」影響力を大幅に後退させることに乗り出した。1926/27年選挙キャンペーンは、こうしてネップの後退を強く印象づけた。以上が基本的な概要である。 本年度は、1925/26年と1926/27年の2度の選挙キャンペーンについて原稿の執筆をつづけた。並行して執筆された論文「『クラーク』と『勤勉な農民』――ネップはあったか――」は、上記のような、党の農民に対する認識の変化によって、ネップの基礎にあった「勤勉な農民」が逆に敵視されていく過程を考察したものである。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は本研究の最終年度であり、1920年代最後の選挙キャンペーンである1928/29年選挙を考察して、1920年代における村ソヴェトと農民共同体という本研究の締めくくりとすることを目的とする。1928年初頭にはじまった穀物調達危機は、農民への直接的な攻撃(穀物供出の強制)のはじまりとなり、農村の情勢を一変させた。1928/29年選挙キャンペーンは、それまでのように党・プロレタリアートの優位や覇権ではなく、クラークへの経済的、政治的攻勢が叫ばれるなかでおこなわれた。これをもって、全面的集団化の政治社会的前提を解明することとする。 農業の全面的集団化の最中に実施された1929/30年選挙キャンペーンについて考察することも考えており、実際、分析を手がけた。しかし、まだその実態を推論する段階にあり、資料的にも困難が予想される。それを来年度の研究目的に含めるかどうか、いまのところ決断していない。 なお、本研究課題は、村ソヴェトという「国家」の末端の機関を中心に研究するものであり、1920年代ロシア農村の全体的研究の一部(第3部)をなすものである。本研究課題の終了後は、引きつづいて、「党」と「農民」を考察の対象(それぞれ第2部、第1部)とすることを予定している。
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