2015 Fiscal Year Research-status Report
貨幣・信用に関する論争への経済史的アプローチ:外生的貨幣供給論の歴史実証的否定
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15K03574
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Research Institution | Nagoya Women's University |
Principal Investigator |
金井 雄一 名古屋女子大学, 家政学部, 教授 (30144108)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 内生的貨幣供給説 / 外生的貨幣供給説 / ランニング・キャッシュ手形 / イングランド銀行創設 / イングランド銀行券の前身 / 銀行券の内生性 |
Outline of Annual Research Achievements |
外生的貨幣供給論の歴史実証的否定を試みるために計画していた諸作業の中から、今年度は特にイングランド銀行の創設時における銀行券(正確に言えばその前身)の問題を取り上げた。 従来、「預金が先か、貸出が先か」という問い方で、貨幣流通が先に生じて預金が形成された後に貸出が行われるのか、それとも貸出=信用供与があって預金が形成されて貨幣流通が生じるのか、が論争されてきたが、実証的歴史研究からのアプローチを生かすため、本研究ではこの問題を貨幣一般と預金ではなく、銀行券と預金に限定して検討を進めることにした。すなわち、銀行券が流通し始め、それが預金されるのか、預金が形成され、そこから銀行券が生まれるのか、という問いに形を変えたのである。 検討素材にしたのはイングランド銀行の創設当初の実態である。実は同行が創設時の最初の理事会において議論しているのは、預金を受け入れた場合にその証明として何を渡すか、という問題であった。理事会は三つの方法を決めている。第1は持参人払のランニング・キャッシュ手形の付与、第2は勘定を記入した帳簿の付与、第3は手形振出しが可能な勘定口座手形の付与である。ここから分かるようにランニング・キャッシュ手形は預金口座なしには生まれないものなのであるが、これが後のイングランド銀行券なのである。 銀行券は預金口座なしには生まれなかったとすれば、経済の外から銀行券を増減させうるというような外生説的把握は成立する筈もなく、銀行券の内生性は明らかだと思われるが、以上の議論は預金通貨決済が先行的に普及していたことを確認しないと十分な説得力を持たないだろう。したがって、次に、ゴールドスミス手形の流通と機能を確認する作業へと進む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
勤務先の変更があったため、新たな担当科目のための準備などが必要になり、研究時間を想定していたほどとれなかった。もっとも、資料収集は順調に進んでいるので、最終年度までには取り戻せる程度の遅れと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もロンドン(イングランド銀行文書室、国立公文書館など)における一次資料の収集に力を入れ、貨幣供給に関する歴史の実態をできるだけ詳細に明らかにしていく。また、理論的対立を歴史的実証から整理・再把握する作業も続ける。それによって、外生的貨幣供給論はどの時代においても成り立つ見解ではないということを説得的に提示したい。
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Causes of Carryover |
複写費が予定より少額で済んだため、3,176円の残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
複写費として使用する。
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Research Products
(2 results)