2016 Fiscal Year Research-status Report
昭和戦前期~1970年代の地域における水利用と生産・生活に関するミクロ歴史研究
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15K03586
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
沼尻 晃伸 立教大学, 文学部, 教授 (30273155)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水利用 / 日記 / 環境史 / 水辺 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、昭和戦前期~1970年代を対象として、地域における多様な水利用(その創出と維持管理の内容)が、市場的関係や国家・地方公共団体の政策とどのように関連し対抗していたのかを明らかにする点にある。本年度の研究実績は、以下の3点にまとめられる。 1.資料収集及び聞き取り調査について、静岡市に関しては、既に収集し分析を始めている石工の日記に関連し、昭和戦前期~高度成長期にかけての集落の家々の系譜を復元するための聞き取り調査を行った。三島市に関しては、主に、昭和戦前期から戦後改革期に関する都市住民や農民の水利用と地方行財政との関連を把握するため、市財政資料や市議会議事録、地方新聞及び地方史誌の収集と聞き取り調査を行った。 2.静岡県静岡市・三島市及び兵庫県尼崎市に関する資料分析・考察を行った。三島市に関しては、戦時期~戦後改革期における人口増加と社会変動のなかで、市街地地主による簡易水道の維持管理が困難となり地方自治体(市)による水道敷設が模索される一方で、三島市郊外では戦後改革期に農民の林野や川への直接的な利用が強まった点を明らかにした。加えて当該テーマ追究のための方法論に関する検討を行った。その結果、戦時期以後を対象とした近年の研究は、所有と利用に関する国家的政策と利用実態とのずれに注目している研究が多い点、利用の実態変化に関してみると高度成長期(とそれ以後)の画期性が確認でき1970年代以降の変化に関する研究の重要性が判明した。 3.研究発表及び論文作成に関しては、尼崎の事例に即して土地区画整理における水路分析の重要性を指摘した論考や上述した静岡市の石工の日記資料の紹介を発表した。また土地や水と人との関係史に関する方法論に関して日本近世史研究者と議論できる機会で発表し批判を受けた。2.で述べた諸研究に関する成果発表も進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた複数の研究対象地に関する実証研究に関して、静岡県三島市に関してはこれまでの研究史においてあまり注目されてこなかった戦時期~戦後改革期の都市部における水や山野の利用に関する研究が進み、静岡県静岡市に関しては日記に登場する人物理解のうえで必須となる集落の家々に関する復元作業を進めることができた点が、第一の理由である。但し、兵庫県尼崎市に関する研究に関しては、他の2地域の資料調査と資料考察に重点をおいたこともあって、新たな資料調査を実施することはできず、これまで収集した資料にもとづく分析を進めた。 研究を進めていくうえでの方法論に関して新たな知見が得られたことも、今年度の大きな研究成果であった。水の利用をめぐる隣接諸科学分野の諸研究や前近代史研究などの研究状況を踏まえることで、土地所有と利用という根源的な問題との関わりのなかで、ミクロ分析を踏まえて水利用と生産・生活との関連を追究する意義に関して一定の見通しを持つことができるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後とも、研究対象地における資料収集、収集した資料の分析と成果発表、国内外の関連文献の講読と全国的データの歴史的把握の3本柱で研究を進めていく予定に変更はないが、これまでの研究に鑑み、以下の点に考慮して研究を進めていきたい。第一に、現在の研究対象地を深く掘り下げて研究する方向性に変化はないものの、水利用の地域的差異に鑑みた場合、より多くの事例と関わらせて現在の研究対象地を位置付ける必要性である。そのため特徴的な水利慣行や利害対立(およびその調整)などが見られる地域に関しては、必要に応じて実地調査を行う予定である。第二に、水利用と生産・生活に関するミクロ分析をすすめると、特に高度成長期~1970年代に関しては、水質汚濁の発生やそれに対する下水道の普及など政策によって、生産・生活自体が大きな変化を余儀なくされていることが確認されるが、これらの政策に関する先行研究が乏しくこのことが研究上の支障となっている点である。そこで、ミクロ分析を進めていく上でも必要となる政策に関する分析も合わせて進めることで、本研究の課題である多様な水利用と国家・地方公共団体の政策とどのように関連し対抗していたのかという論点を深化させていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度実施予定であった研究対象地への調査のなかで、実施できないものがあり、旅費の使用額が予定よりも少なくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
第一に、研究対象地で調査するための費用である。その内訳は、1.主な研究対象地である静岡県三島市、静岡市、兵庫県尼崎市とともに、特徴的な水利慣行を有する諸地域、及び国立国会図書館などの公的機関・図書館への調査旅費、2.聞き取り調査を行った際の謝礼費、3.調査先での文献複写費及び公的機関・諸家から文書などを借用した際の郵送費、4.文献をデジカメ撮影する際に必要となる撮影機材の運送費などである。第二に、収集した資料を整理するためのアルバイターへの謝金、及びアルバイターが用いるパソコン周辺器具や文具費である。第三に、研究代表者が本研究を進めていくうえで必要となる書籍や文献の購入費、パソコン周辺機器や文具費である。第四に、本研究を学会発表する際に必要となる旅費である。
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