2016 Fiscal Year Research-status Report
メトロポリタン・リージョン――ドイツにおける国土政策と分散的地域構造
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15K03591
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
山井 敏章 立命館大学, 経済学部, 教授 (10230301)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | メトロポリタン・リージョン / 地域政策 / 国土計画 / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
今回の科研費プロジェクトの成果を、それに先立つ科研費プロジェクトの成果とあわせて一書にまとめ、『「計画」の20世紀――ナチズム・<モデルネ>・国土計画』(岩波書店)として公刊した。本書は、20世紀ドイツにおける国土計画の歴史を、計画策定プロセスへの自治体の主体的参加を重視する方向性(「下から」のベクトル)と、国土計画が国の任務であることを強調する方向性(「上から」のベクトル)との対抗を軸に描いたものである。同時に本書は、歴史研究に長らく強い影響力を及ぼし続けてきたフーコー的歴史観、近代を「システム化と規律」に支配された社会と捉えるフーコーの近代観に対する批判の書たることを意図している。フーコー的観点からすれば、国土計画を含む「計画」は、社会を「システム化と規律」の下におこうとする近代のまさに典型的な営みと見ることができる。そうした認識の重要性を認めつつも、本書は、「規律」のみに偏ったフーコー的近代論の問題性を理論的・方法論的に明らかにするとともに、20世紀ドイツの国土計画の歴史を「規律」と「自律」(上の二つのベクトル)の葛藤のドラマとして描くことにより、フーコー的一面性を乗り越える歴史記述の実現を図った。 当初予定していたドイツへの出張は諸般の事情で残念ながら実現できなかったが、2016年5月には、ブカレストのルーマニア・アメリカン大学で開催された国際シンポジウムに参加して報告を行った。同時に、同大学の研究者と意見交換の場をもち、ヨーロッパの周辺部から見たEUの地域政策について多くの知見を得ることができた。本研究は、直接にはドイツのメトロポリタン・リージョンを対象としているが、同種の地域形成・地域開発の試みは、ヨーロッパ各地で広く見られる。ルーマニアでの研究者との議論、地域開発の現状の視察は、研究の視野と深度を高める上で有益であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果の一部として一書を刊行することができたのは大きな成果である。本研究が直接の対象とするメトロポリタン・リージョンは1990年代以降におけるドイツの地域政策の重要な一部を成すが、今年度における研究の過程で、それに先立つ1970年代/80年代における世界経済の構造的変化(石油危機を契機とする戦後のいわゆるケインズ主義的福祉国家体制の終焉と新自由主義の隆盛、グローバル化の進むなかでの国際的立地競争の激化など)と各国の地域政策との関連を問うことの重要性が明らかになってきた。この問題に関する理論的・実証的研究の成果を論文にまとめるべく、現在作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
前項に記したように、当初は視野のうちに十分には入れていなかった1970年代/80年代の変化を組み入れつつ、メトロポリタン・リージョンに焦点を当てたドイツの地域政策に関する研究を進める。なお、上述の書物のドイツ語版を刊行する可能性が出てきている。その可能性を追求するとともに、そのための準備を進める。
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Causes of Carryover |
長期休暇中に予定していたドイツ出張が諸般の事情により実施できなかったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は長期休暇を利用してドイツに出張し、資料の収集にあたる。
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Research Products
(2 results)