2015 Fiscal Year Research-status Report
流動的メンバーシップを通じたイノベーション創出メカニズム
Project/Area Number |
15K03596
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
阿部 智和 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (20452857)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 経営組織論 / コワーキング / 経営戦略論 / コミュニケーション / オフィス・デザイン |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度に進めた作業は以下の3つである. 第1に,すでに収集済みの日本国内のコワーキングスペースを対象とした質問票調査の分析を進めた.具体的には,国内のスペースを対象とした記述統計と相関分析を進め,国内のスペースの①施設,②運営組織,③戦略,④活動,⑤利用者,⑥成果の状況を明らかにした.多くの運営主体はスペース事業を副業としていること,運営責任者の多くがコミュニティ形成を重視している一方,スペース事業単独での採算性をそれほど重視はしていないこと,フリーランスの利用者が約4割強を占めること,多くの運営責任者は,スペース運営の現状に必ずしも満足しておらず,単体で利益が出ていないことを課題と認識していること.などを明らかにした. 第2に,質問票の自由回答項目に注目し,①国内のスペースの連携状況,②課題と目標を明らかにした.具体的には,遠隔スペースとの連携では,情報交換や相互誘導,相互利用などサービス向上に寄与する連携がみられること,他の主体との連携(地域や他企業など)では,イベントと業務提携が中心であることを明らかにした.また,スペース運営の課題として,新規利用者の増加,スペースの存在に関する認知度の向上,施設の改善,イベントの充実などが多く言及されていることも示した.さらに,運営責任者が目標とするスペースは多岐にわたること,目標とするスペースの選択理由は,サービス,収益性,事業コンセプト,施設,場の雰囲気などが優れていると言う点にあることも明らかにした. 第3に,国内で最大規模の利用者数を誇るコワーキングスペースの活動プロセスをまとめたケース論文も公表した. これらの作業の他に,一部の論文を英語に翻訳し,所属機関のディスカッション・ペーパー(オープン・アクセス可)として公表し,海外発信も進めた.さらに所属機関主催の市民向け公開講座を通じて,研究成果を社会に還元する機会も設けた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度は,事前に収集した質問票調査の分析を進めた.この作業を通じて日本のコワーキングスペースに関する動向を把握し,個別のスペースを対象とする調査を開始する基盤を形成することができたと考える.これらの成果は複数の論文(うち2本は査読有)として公表することができた. さらに,一部の成果については英語化を進め,海外発信を図るなど,国際共同研究もしくは国際学会での発表を進める際の予備的経験を積むことができた点は予想外の進捗であると考える.2016年度に海外学会での報告をするという計画の実施は難しい状況にあるが,複数本の論文を海外ジャーナルに投稿することを予定している. また,2016年度後半の公表をめざして,文献レビュー作業を進めた.具体的には国内外のコワーキングスペース,利用者に関する研究・調査,オフィス・デザインとコミュニケーションに関する研究を中心に文献レビュー作業を進展した.とりわけ,コワーキングスペースの研究・調査のサーベイからは,現状は各国の状況報告にとどまっており,分析枠組を構築し,理論にもとづいた実証的な分析が望まれることを明らかにした. しかしながら,特定のスペースを対象とした調査を進め,利用者が創出するイノベーションに関する質問票調査の基盤を作る作業は十分には進展しなかった.具体的には,1つのスペースの事例論文を作成するにとどまっている. これらを踏まえると,2015年度の計画はおおむね達成したと考えられる.2年目となる2016年度中に,未達の目標についても達成可能であると考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
2016年度は,以下の4つの作業を進めていく. 第1に,2014年度に実施した質問票調査の際にインタビュー調査に協力可としたスペースを対象として,予備調査(参与観察を想定)およびインタビュー調査を進める予定である.100以上のスペースから協力可という回答を得ており,このうち2から3のスペースを対象に調査を実施する予定である.この作業を通じて,コワーキングスペースの利用者によるイノベーション創出過程の仮説を構築し,質問票調査の開発を進めたい.また,国内のスペースを対象とした質問票調査(2016年10月実施予定)を計画しており,そこから得られるデータを利用し,新たにインタビュー調査協力可能と回答したスペースを対象にインタビュー調査を行うことも想定に入れている. 第2に,国内のスペースを対象とした質問票の分析を通じて,コワーキングスペースで実際に利用者がイノベーションを創出しているのか否か,また,その内容について把握する. 第3に,研究代表者がこれまで蓄積してきたオフィス・デザインに関する研究を著書としてまとめる.この作業を通じて,調査対象とするコワーキングスペースのオフィス・デザインと利用者間のコミュニケーション,協働をつうじたイノベーションの創出という現象をより精緻に理解できるようになると思われる.なお,すでに出版先(および大まかな出版時期)は決定済みである. 第4に,研究業績の海外発信を一層進める.4月中に新たなディスカッション・ペーパーの公表を予定している.また,これらのディスカッション・ペーパーを1本の論文にまとめ,海外ジャーナルへの投稿を予定している.この作業は研究の海外発信のみならず,日本のコワーキングスペースの現状を海外に発信することにもなり,コワーキングに関する研究および実践にも資すると考えている.
|
Causes of Carryover |
国内の学会誌に投稿していた論文が2月に採択され,4月に刊行される予定である.残額はその掲載料等の支払いを考慮に入れたものであるが,請求が次年度に行われることとなったため繰り越すこととした.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の繰越金は学会誌の掲載料等(上記のとおり)に充当する予定である.
|
Remarks |
上記ページを平本健太,宇田忠司と作成.研究の進捗状況のアウトリーチを図っている.
|
Research Products
(9 results)