2017 Fiscal Year Research-status Report
流動的メンバーシップを通じたイノベーション創出メカニズム
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15K03596
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
阿部 智和 北海道大学, 経済学研究院, 准教授 (20452857)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 経営組織論 / コワーキング / 経営戦略論 / イノベーション / ワークプレイス・デザイン / コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度に進めた作業は以下の3つである. 第1に,日本国内のほぼ全ての共有・共創型スペース(コワーキングスペースやファブラボ等のものづくり施設)を対象とした質問票調査(2016年9月末時点で国内で稼働している施設の全数に近いと推計される750スペースのうち,308スペースから回答を得た)を利用し,収集したデータのうち268スペースの回答を分析し,①施設,②運営組織,③戦略,④活動,⑤利用者,⑥成果,という6つの包括的視点から相関分析の結果を示した. 第2に,2014年度に行った調査で得られたデータをもとに,コワーキングスペースの運営にとって重要と考えられている2つの目標(コミュニティ形成とスペース事業のサステナビリティ)に影響を与える要因についての考察を進めた.具体的には,これら2つの目標を従属変数とした回帰分析を行い,コミュニティ形成とスペース事業のサステナビリティに寄与する変数を,コミュニティ志向(コミュニティ形成にのみ寄与する),サステナビリティ志向(事業のサステナビリティ向上にのみ寄与する),トレードオフ(上記いずれかに正の貢献する一方で,もう一方には負の貢献をする),両立志向(コミュニティ形成にもサステナビリティ向上にも寄与する)の4類型に分類可能であることを明らかにした.これらの成果は,国際カンファレンス(Research Group for Collaborative Spacesによる開催)で2018年1月に発表した.発表時に得たコメントを反映し,さらに改訂した内容を,2018年7月に実施される国際学会(European Group for Organizational Studies)で報告する予定である. 第3に,ワークスペースでの人間行動に関する知見をまとめ,学会報告を行った.これらは今後の利用者調査に活用することを企図している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」欄で報告の通り,2017年度は過去に収集したデータをもとに,コワーキングスペースの運営にとって重要な変数の特定作業を主として進めた.コワーキングスペースに関する先行研究では,コワーキングスペースの目的(共有や協働)を達成しつつ,スペースという場を維持する財務的成果(売上や利益)に寄与する要因について,少数の事例ベースからの知見,もしくは,理念的想定が提示されている状況に留まっており,大量データに基づき定量的な実証研究を行った意義は研究面及び実践面にとって大きいと考えている. また,協働・共創的作業空間に関する国際的な研究グループであるResearch Group for Collaborative Spacesの日本支部の代表となった.同グループの主催する国際カンファレンスで研究成果の発表も実施した.これらは国際共同研究へとつながる可能性を秘めており,本研究課題の今後にとって大きな進展であると考えている. さらに,European Group for Organizational Studiesでの報告も決定した.国際ジャーナルに投稿するという当初目標には到達しなかったものの,上記のResearch Group for Collaborative Spacesでの発表も含め,研究成果を海外に発信する活動を進められたと考えている.これらの報告をベースに2018年度前半には国際ジャーナルに論文を投稿する予定である. しかしながら,特定のスペースを対象とした調査・分析を進め,利用者が創出するイノベーションに関する質問票調査の基盤を作る作業は十分には進展しなかった点がいまだ課題として残されている.ただ,最終年度である2018年度には質問票の構築,調査の実施までは可能になると思われる. 以上のことから,現時点では本研究課題はおおむね順調に進展していると判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は,以下の4つの作業を進めていく. 第1に,European Group for Organizational Studiesにて研究発表を行う.この作業を通じて,研究成果のアウトリーチ(特に海外)を図る.また,Research Group for Collaborative SpacesやEuropean Group for Organizational Studiesでの発表内容の精緻化を図り,国際ジャーナルに論文を投稿する. 第2に,コワーキングスペースにおけるコミュニティ形成およびサステナビリティ向上に至る因果経路を明らかにするために,より精緻な定量的分析を行う.分析結果を取りまとめ,2018年度の後半に国際ジャーナルに投稿する(日本国内向けにはワーキング・ペーパーを作成し,公表する), 第3に,複数のスペースを訪問し,インタビュー調査を進める予定である.上記の因果経路の解明を目的とした分析をより正確に進めるために,複数の運営者の知見を手掛かりとすることを企図し,調査を実施する.また,利用者に対する調査(利用者によるイノベーション創出過程の解明)を行うために,利用実態及び利用者による成果の具体像を理解することも目的として実施する. 第4に,研究代表者がこれまで蓄積してきたオフィス・デザインに関する研究を著書としてまとめる.この作業を通じて,調査対象とするコワーキングスペースのオフィス・デザインと利用者間のコミュニケーション,協働をつうじたイノベーションの創出という現象をより精緻に理解できるようになると思われる.なお,すでに出版先(および大まかな出版時期)は決定済みであるが,作業が予定よりも遅れており,2019年中の発刊を目指して作業を進めている.
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Causes of Carryover |
2018年7月にエストニアで開催予定のEuropean Group for Organizational Studiesでの報告が決定したため,フル・ペーパーの英文校閲及び渡航費に充当することを予定し,2017年度内の予算を繰り越すこととした.さらに2018年度内に複数論文を国際ジャーナルに投稿する予定のため,その英文校閲に充当する予定である.
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Remarks |
上記フェイスブックページを通じて,研究のアウトリーチを図っている.
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