2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K03627
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
井上 達彦 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (40296281)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 組織学習 / 代理学習 / テキストマイニング / 言及頻度分析 / 経験学習 / イノベーション / 実践共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、トヨタ生産システム(TPS:Toyota Production System)を源流とするNPS(New Production System)というものづくりの実践共同体についての調査である。これは、各業界を代表するような企業が集まった集団で、相互に、代理学習と経験学習を重ねることによって生産イノベーションを引き起こしている。この団体にフィールドワークを行い、機関誌をテキストマイニングすることで、模倣によるイノベーションを集団で創出するための一般的な知見を導くことを目的とする。 当該年度ではパイロット調査によっていくつかの仮説を導くことができた。第1に、NPSで会員企業が学ぶ内容は「経営思想」「目的」ならびに「手段」という3つの階層に整理し得ることがわかった。「経営思想」は「教育」「思想」「理念」「人材育成」「ものづくり」にかかわる。「目的」は「原価低減と収益の拡大」「マーケット変化への即応」「A+B+C」などから構成される。「手段」は「ジャストインタイム」「自働化」「見える化」「流れ図」などから構成される。 第2に、「経営思想」、「目的」ならびに「手段」は、ものづくりや経営の習熟度に合わせて意識するべきだと考えられていることがわかった。たとえば、入会して期間の短い(具体的には10年未満)会員企業に対しては、指導する立場にある実践委員は「経営思想」を徹底的に意識させるような言動が多く見られる。ものづくりについての考え方と方法が習熟するにつれて、このような言動は減少するが、原点回帰すべ時期(具体的には20年以上)になると「経営思想」についての言及が再び増える。目的や手段についても習熟度に応じた別のパターンが見られるので、これらを体系化することで実践共同体における相互学習について有益な示唆が得られると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、3つの方針で調査を進めてきた。第1に、申請時の研究計画で明記したように、調査対象企業の過程追跡調査を行った。研究の初期に実地調査を行ったM社のその後の経過について訂正的な調査を行うことができた。 第2に、インタビューや観察で得られた知見を別の方法によって裏付けるためにNPSニュースという団体の会員向けの定期刊行誌のテキストマイニングのための準備を行い、パイロット調査を行った。 当初の計画では、観察やインタビューで導いた仮説をテキストマイニングによって検証するつもりであったが、実質的に利用できるデータが当初想定していたよりも少なく、この分析のみで詳細な仮説の検証は困難であることが判明した。しかし、その一方で、基本仮説を検証するのには有用であることもわかった。 第3に、相互模倣に関する本研究で得られた知見が他の実践者コミュニティでも成り立つかを確認するために、別のコミュニティについてのインタビュー調査などを行った。ものづくりの実践共同体と、起業に関わる実践共同体の比較により、すでに導いた仮説の妥当性を高めると同時に、新しい視点を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度以降の調査活動についての基本方針は下記2点であり、今後もこれに従って調査研究を進めていく。 (1)比較軸の抽出と理論的サンプリングの実施。 (2)過程追跡の開始と継続 第1の比較軸の抽出については、起業を志す人たちの実践共同体との比較によって、調査対象だけでは得られない視点を見出すこととする。具体的には、熟練の生産技術者のみならず、連続起業家のそれぞれにインタビューを行う。 過程追跡については、実践共同体を運営する中心人物などに、引き続きインタビュー調査を実施していく。さらに、テキストマイニングについても入手可能なデータを最大限活用して本調査を行うつもりである。
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