2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K03700
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Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
江島 由裕 大阪経済大学, 経営学部, 教授 (00382359)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アントレプレーシップ / ベンチャー企業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中小企業の持続的成長の駆動力として、学会で認知されてきた戦略姿勢の1形態である企業家的戦略志向性(EO: Entrepreneurial Strategic Orientation)の、マネジメント・プロセスの解明である。その目的を達成するために初年度は主に最先端のEO研究の動向を文献サーベイと学会への参加を通じて把握するとともに、大規模郵送アンケート調査による中小企業のEOにかかわるデータ収集につとめた。二年目では、主に収集したデータをDB化し第一次分析を行いEOが機能する新たな先行条件や触媒条件の予備的なケース調査と検証を行った。 こうして積み重ねたEOメカニズムの調査結果を踏まえて、平成29年度には、一旦、これまでの発見事実や知見を整理し研究成果としてのとりまとめを試みた。同時に、これまでの調査結果を検証することを目的に、国内外の企業へのインタビュー調査を引き続き実施しEOが機能する諸条件やEOが持続的に諸機能を発揮できる環境条件について探索的に調査研究に取り組んだ。なお、そこから見えてきたEO研究の新たな研究課題は次の2点である。 第一に、定量調査ならびに定性調査の両分析結果から、新市場や新事業の開拓という行動にはEOのサブ構成概念の中でもリスク志向性にかかわる行動様式が経営トップや組織の大胆な行動の前提条件となっている点である。不確実性やリスクをどのようなマインドセットやフレーミングで、経営トップが、個人として、あるいは組織として認知するのかが、EOの潜在力を表出する根底にある可能性が示唆された。第二に、そうしたマインドセットやフレーミングが個人特性(衝動性)と、実績に対する満足度の水準(アスピレーション水準)と深く関わり、リスク負荷の先行条件となっている点である。今後、特にこの2点を注視しながら、広くEOメカニズムの研究を深めていく計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究の主なねらいは2つあり、1つ目は、過去2か年の調査研究から得られた発見事実や知見を整理し、研究成果として取りまとめるとともに、今後の研究に向け焦点を絞った論点や課題を見つけることである。2つ目は、昨年度から続けてきた企業インタビュー調査の継続によるEOメカニズムの探索的研究である。初年度からの定性調査と定量調査の分析結果を踏まえて、重層的かつ本質的な命題/仮説を構築することを意図している。 1つ目の研究の狙いについては、主に海外の学会での最先端の議論とトップジャーナルのサーベイ結果ならびに海外のEO研究者との意見交換などを通じて、現時点でのEO研究の論点を整理し、EOに広くかかわる研究書や論文の執筆に時間を費やした。過去から現代に至るEO研究の動向についてはほぼ網羅して把握し、学術面や実践面で求められている論点や課題についても整理できたと考えている。2つ目の研究の狙いである企業インタビュー調査に基づくEOメカニズムの探索的研究については、事前調査に基づき焦点を絞った上で、少数ではあるが国内と海外の企業の関係者に半構造化したインタビュー形式でバイアスを極力除き自由に語ってもらいながら情報収集(語りの記録)にあたった。こうした調査研究活動を通じて、これまでの定性調査と定量調査の結果とあわせて、EOの先行条件と持続的なEO表出の環境条件にかかわる論点や課題を見つけることができた。平成29年度に計画をしていた調査研究活動は上記の通り、ほぼ予定通りの進捗と認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、4年間の本研究テーマの最終年度にあたるため、基本的には、これまでの調査研究結果を再度見直す中で、必要に応じて補足調査を実施しながら、EOメカニズム研究のとりまとめを行う予定である。具体的には、EOの持続的な表出の先行条件の鍵を握る不確実性やリスク志向性に影響をあたえる諸要因に焦点を絞った質的調査を可能な限り繰り返し、これまでの調査結果との比較分析を行う計画である。 調査の実施に際しては、過去に実施した定量調査結果と定性調査結果から導出した仮説モデルを客観的に検証する形で調査分析を実施したいと考えている。また、これまでの調査研究結果について、国内外の学会やEO研究者との意見交換を通じて、フィードバックをもらいながら、異なる分析アプローチによるEOメカニズムの解明の試行も可能な限り実施する予定である。 さらに、平成30年度が、本研究テーマの最終年であることを踏まえて、国内外の学会への報告や学術誌への投稿に向けて、調査研究結果を体系的に整理し研究成果として広く社会に発表したいと考えている。同時に、この4年間のEO研究成果から得た知見と新たな研究フロンティア(新たな研究課題やテーマ)を、世界的なアントレプレナーシップ研究潮流の中から改めて捉え直し、論点整理をし、学会において検討すべき研究課題として提起することも検討している。
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Causes of Carryover |
平成29年度に想定していた定性調査(企業インタビュー調査)の回数が予定していたよりも低く抑えられ、また、学会や研究会への参画による意見交換の場も効率よく限られた回数で実行できたことで想定していた費用との差が生じた。同時に、最終年度に予定している、補完的かつ総合的な質的調査ならびに最終的なEO研究にかかわる意見交換の場に向けた費用が予定よりも必要と想定されるため、そこに差額を使用したいと考えている。
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