2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03716
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Research Institution | Keiai University |
Principal Investigator |
粟屋 仁美 敬愛大学, 経済学部, 教授 (30342306)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | CSR / 戦略 / 資源循環 / 次世代自動車 / ドメイン / 静脈 / 所有権理論 / 外部性の内部化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,自動車リサイクル市場(静脈市場)を,経済的費用で分析することでその戦略性を明確化するものである。要するに,使用済自動車から生じる外部性の内部化を所有権理論,企業間関係論の観点より検討し,戦略的な市場化・事業化の方法を導出することを目的としている。その上で静脈市場特有の戦略性の有無について言及を試みるものである。 平成28年度も,フィールド調査を重点的に行い、企業間連携による経済効率の向上を明らかにしつつ、全体最適が個別最適ではないことを明らかにした。そのうえで静脈産業全体の経済性を向上させるには、動脈への付加価値が課題であるとし、静脈産業の最終領域である素材産業への考察を加え始めたところである。 研究手法としては,自動車リサイクルに関する産官学の研究会(任意)の参加と企業訪問(ヒアリング)である。研究会とは,広島資源循環プロジェクトとSR会議のことである。 また,企業訪問(ヒアリングもしくは見学)先は以下である。釧路コールマイン(釧路市、平成28年7月28日)、鈴木商会石狩事業所(石狩市、平成28年7月29日)、太平洋セメント(東京都 平成28年8月8日),太平洋セメント熊谷工場 (埼玉県熊谷市 平成28年8月19日)、日本シーム株式会社(川口市 8月25日),拓南商事(うるま市 平成28年9月16日、平成29年3月8日),東京製鐵岡山工場(倉敷市 平成28年11月16日),株式会社 ツルオカ(小山市、平成28年12月8日)である。 また企業訪問のみではなく、自動車リサイクルに関連する団体が主催する第25回開催2016NEW環境展(東京 平成28年5月26日),エコプロダクツ2016(東京 平成28年12月9日),G7アライアンスワークショップ-国際資源循環の促進に向けた公開ワークショップ-(東京平成28年12月14日)にも参加し、新たな知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自動車リサイクルビジネスの戦略の考察のために,フィールド調査による実態把握を重ねている。 自動車のような多種多様で勝つ膨大な複合材料を使用する静脈市場は、単体素材を使用する商品や小型家電等と比較し複雑かつ規模も大きい。自動車の静脈を担うのは、解体業、破砕業、中古部品販売業、素材産業である。素材産業とは製鐵事業、精錬事業、セメント事業であり、これらに事業が静脈の利益率向上の鍵となる。 平成28年度は、その中でも日本のセメント事業者に着目し考察を加えてきた。なぜならば、セメント事業者は動脈で使用される素材を製造するが、静脈産業の最後の要でもあるからである。使用済自動車が解体、破砕され、再資源化の可能なものを他社が根こそぎ抜き取った最後の部分のシュレッダーダスト(Automobile Shredder Residue、以下ASR)を100%再資源化に活用している。 これは我が国の特徴でありアメリカ等の他国では、セメント製造には石灰石等、バージン原料のみを使用していることも興味深い。この要因は、国による廃棄物の埋め立て地の不足容量や再資源化意識の相違にある。以上のことを踏まえ、自動車の再資源化(社会的費用の私的費用化)における意義(付加価値の再生)を、経済的コストの観点より考察し、再生(資源循環)の経済の可能性を探りつつある。研究の方法は、静脈の最後の要であるセメント事業者を考察(史的、資源循環)する。特に意欲的に再資源化活動に取り組んでいるA社 を事例に対する詳細な定性調査を行い導出するものである。 以上のように自動車の外部性の内部化については,解体事業者のみでなく産業全体に視野を広げ,特に素材産業に注力し、所有権理論,企業間関係論、またドメインの観点より検討し,本研究の目的である戦略的な市場化・事業化の方法を導出することに近づきつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目の平成29年度はフィールド調査研究を継続しつつ自動車リサイクル市場(静脈市場)の戦略についてまとめる。 自動車リサイクルは,規模も大きいためフィールド調査も骨を折るが,初年度の研究により,自動車リサイクルを産業全体(解体,破砕,リサイクルの3工程)の中で,特に自動車リサイクル産業全体を把握するための肝は最終的なリサイクルであることが理解できた。2年目に着手したリサイクルの最終工程の調査を可能な限り継続しつつ、全体最適と個別最適の差異の明確化とその縮小方法について議論する。これらが結局は自動車リサイクル市場(静脈市場)の付加価値向上につながるからである。 同時に海外に流出する中古自動車や、リユース部品のあり方についても留意し,訪問調査を継続する。自動車や部品のリユースは自動車リサイクル市場(静脈市場)のもう一つの大きな側面ではあるが、今回の研究ではメインではないことも承知している。 また次世代自動車と静脈市場との関係性についても、研究する必要をとても強く感じている。次世代自動車の進歩はわが国よりもアメリカのシリコンバレーで格段に進んでいる。この現状を把握し、今後の静脈市場のあり方の検討は急務である。もっと言えば、次世代自動車の製造時に、静脈への配慮の有無を確認し、静脈市場ビジネスが先手を打って動く必要もある。そうしたイノベーションの真っ只中にある自動車産業を動脈・静脈両側よりアプローチすることは必要であろう。 静脈市場のビジネス創造は緒に就いたばかりで,経営学的研究の蓄積は少ない。規模の経済、範囲の経済、コストリーダーシップ、差別化など、経済性優位の側面はいくつかあるが、その一つに資源循環の経済を掲げることができるよう取り組む。
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Causes of Carryover |
参加している研究会の開催会場が、想定よりは近隣が多かったため、次年度への繰越金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次世代自動車の現状、今後の開発予定、それに伴う静脈への配慮の調査を、関連企業に行う予定である。
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