2016 Fiscal Year Research-status Report
主要市場の企業保険約款の比較研究によるグローバル競争時代の保険契約理論の構築
Project/Area Number |
15K03745
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中出 哲 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (40570049)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 損害保険の契約理論 / 保険法 / イギリス2015年保険法 / 北欧海上保険通則 / 再保険契約原則 / 保険契約締結時の義務 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、海上保険を中心として、企業保険分野の契約理論を研究するものである。2016年度は、在外研究期間中で、8月末まではイギリス・エクセター大学、9月からはドイツ・マックス・プランク外国法国際私法研究所に在籍し、その機会を最大限に利用して研究活動を進めた。2016年度は、初年度に引き続き、文献・資料やヒアリング等による情報収集を進めるとともに、研究の過程で得られた一部の成果を論文として発表し、学会報告を行った。また、ドイツとシンガポールにおいて、わが国の保険約款や保険契約法について報告し、外国の研究者との討論を行い、多くの示唆を受けた。国際会議等への参加を通じ、各国の著名な研究者との人的ネットワークも広げた。具体的には、以下のとおり。 1.市場や取引約款等の調査:特に、イギリスとドイツにおける状況を調査した。 2.イギリス保険契約法改正:イギリス約款の国際競争力を支える基盤となる契約法の改正について、その背景、内容、市場に与える影響、わが国に対する示唆等を研究し、2015年保険法の翻訳(監訳)を公表するとともに、2015年保険法の概要に関する論文を公表した(2016年8月)。また、2016年10月に日本保険学会・全国大会において、イギリス保険契約法の改正とわが国に対する示唆について研究報告を行い、その論文を執筆した(2017年6月発行)。 3.世界への発信:2016年6月ハンブルク大学、同9月ゲーテ大学、同11-12月シンガポール国立大学、2017年3月マックスプランク外国法国際私法研究所で、わが国の保険契約法と約款等に関する報告を英語で行い、他国研究者との意見交換を行った。 4.再保険契約法原則策定会議への参加:国際プロジェクトに参画し、主要市場の再保険契約とそれを巡る法的論点の理解を高めた。会議では、種々の発言を行い、国際規則策定に向けたわが国からの貢献に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、2015年度は、情報収集に努め、2016年度は、欧米主要国に出張して取引や法制度の調査を進め、国際会議等にも参加し、また、研究成果の一部を利用して論文作成や研究報告することを計画していた。全体として、2年間で、資料収集に加え、国際交流も広がり、研究成果の一部を元に論文や研究報告も行った。これらは当初計画以上に進んだ。一方、欧州での活動を中心として、米国出張は実施しなかった。 2015年度は、イギリスとノルウェーで情報収集と専門家ヒアリングを実施した。また、世界保険法学会パリ会議(2015年12月)、再保険契約原則策定会議(2016年1月・チューリッヒ)に参加し、専門家の人脈を広げた。 2016年度は、初年度の研究を元に、取引約款の基本となるイギリス保険法改正に関する条文の監訳、改正法に関する論文を公表し(2016年8月)、イギリス法改正に関する研究報告を日本保険学会・全国大会で行い(2016年10月)、その論文も執筆した(2017年6月刊行予定)。 また、わが国の海上保険法の改正(2016年6月ハンブルク大学)、わが国の役員賠償責任保険約款(2016年9月ゲーテ大学)、保険契約締結時の保険契約者と保険者の義務(2016年11月シンガポール国立大学)、保険契約時の保険者の情報提供義務に関する保険業法改正(2017年3月マックス・プランク外国法国際私法研究所)について英語による発表を行い、日本の契約法や実務の特徴について研究者と意見交換した。 また、2016年度は、世界保険法学会(2016年6月ヘルシンキ大学)、再保険契約法原則策定会議(同10月ウィーン大学)、世界金融消費者学会(同10月成均館大学、モデレータ)、消費者・競争法コロキウム(同12月ダブリン大学、モデレータ)、再保険契約法原則会議(2017年3月ゲーテ大学)に参加し、専門家の人脈を広げた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では、2017年度は、8月末までは在外研究機会を最大限に活用して欧州での研究を進め、9月以降は、日本において研究を深化させ、成果を発表すること、また、エクセター大学マーキン教授を日本に招聘して研究報告を行うことを計画していた。これまで2年間の研究成果を踏まえ、2017年度は、以下の研究・発表等を実施する。 まず、イギリスの保険法改正については、すでに学会報告、論文執筆済みで、2017年度に保険学会誌に論文が掲載される。北欧の海上保険通則については、調査を補完したうえで、2017年度または2018年度に日本語の論文として研究内容を報告する計画である。 英語による対外発信として、5月末に、ミラノ・ビッコラ大学において、日本の保険契約に関する報告(英語)を行う。日程調整が可能であれば、イギリスにおいても研究報告する。国際会議等に積極的に参加し、わが国からの発信、国際的な情報交換、ネットワークの形成に努める。参加を予定している国際会議は、以下のとおり(一部について科研費利用)。再保険法原則策定会議(2017年6月チューリッヒ大学)、世界保険協会年次総会(IIS、2017年7月ロンドン)、世界海上保険者協会(IUMI)年次総会(同9月東京)、世界金融消費者保護学会(IAFICO)(同11月上海・復旦大学)、再保険法原則策定会議(PRICL)(2018年1月ウィーン)。 2016年度にシンガポールとハンブルクで報告した内容は、イギリスとドイツにおいて、それぞれ研究書・論文として出版する方向で執筆を進めている。また、研究の成果を日本で出版予定の2冊の日本語専門文献に反映させることも計画している(出版は2017年度または2018年度)。 2017年度に、エクセター大学のマーキン教授を招聘して、国際的研究集会を開催して、わが国研究者・実務家との交流を深める。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、米国、バミューダ、シンガポールなどへの研究出張等も計画していたが、イギリスを中心とした国の研究を優先させた。また、ノルウェー出張は、早稲田大学の研究費を利用した。北欧の国については、2016年度は、出張を行わなかったが、論文の執筆過程で必要となった場合に出張することにした。シンガポール、フランクフルトは、招聘を受け、その費用で出張したため、再度の研究出張は実施しなかった。日本における学会報告は、早稲田大学の研究費を利用した。英語によるプレゼンは、ネイティブ・チェックを行わずに実施したので、その費用は生じなかった。出版時点で利用することを考えている。外国文献の収集については、一部の外国文献の入荷が遅れており、2017年度に経費処理する予定となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
北欧約款については、集めた資料をもとに研究内容を整理作業中であるが、約款起草者等に運用状況等を確認するために、ノルウェーに出張することを検討している。ドイツ、イギリスの文献で、発行が遅れているものがあり、それらは2017年度に入手する。また、研究資料の整理等に必要な備品も購入する。 国際学会やシンポジウム等で機会があれば、日本の保険契約理論について発表して、外国の研究者に対して、日本の契約理論研究を示して、国際的な比較研究を進めていきたいと考えている。 2017年度に、エクセター大学マーキン教授を日本に招聘して国際研究集会を開催し、イギリスの保険契約理論の展開や今後の課題等について、広く研究者・実務家との意見交流の促進を図ることを考えている。
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