2016 Fiscal Year Research-status Report
流通システム変動メカニズムに関する包括的研究 -眼鏡流通動態の複雑性をめぐって-
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15K03755
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Research Institution | University of Marketing and Distribution Sciences |
Principal Investigator |
向山 雅夫 流通科学大学, 商学部, 教授 (00182072)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
趙 命来 香川大学, 経済学部, 准教授 (60582228)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 眼鏡産地 / 産業集積 / 流通システム変動 / 鯖江 / 眼鏡専門量販店 / 伝統的独立眼鏡店 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、眼鏡流通システムに見られる複雑性を、取引主体間関係の変化・主体の行動及び機能の変化・眼鏡生産分業体制の変化・外国における眼鏡生産・流通システムの変化と国内流通システムとの関連性の視点から、明かにすることを目的としている。本年度は、研究実施計画に従って以下の通り研究を実施した。 1.OWNDAYSインタビュー調査(2016.5.27)メガネ小売業の中で成長著しいOWNDAYS台湾への調査を実施し、そのビジネスモデルについて確認するとともに、海外戦略およびそれを重視する背景について調査した。2.日本眼鏡技術者協会インタビュー調査(2016.6.1)伝統的独立眼鏡店に対して近年の業界の現状と問題点について聞き取り、また眼鏡技術者資格認定制度について調査した。3.㈱すずきインタビュー調査(2016.6.28)北海道根室にある伝統的独立眼鏡店であるすずきに対して、創業以来のビジネス展開およびベトナムで展開する海外ビジネスについて調査した。4.第1回研究会2016.9.21)・第2回研究会(2016.9.28)スカイプを利用して留学中の共同研究者と海外における資料収集とインタビュー調査の可能性について調整した。5.第3回研究会(2016.10.6)スカイプを利用して、鯖江産地におけるリンケージ企業の機能の重要性および近年成長するイタリア産地におけるそれとの比較研究の視点について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
眼鏡流通システムにおける変動は、多様な要因の複雑な関連性の元で発生していると考えることができる。変動解明のためには、眼鏡レンズ・メガネフレーム生産システムの成長・変動の歴史と現状把握、眼鏡流通システム自体の成長と変動の歴史と現状把握、海外における眼鏡レンズ・メガネフレーム生産システムの変動の把握、眼鏡レンズ・フレームの技術的イノベーションの把握、などが不可欠である。 本年度は、眼鏡小売業界における新業態としての専門量販店と伝統的眼鏡独立小売店を中心に調査を実施し、それぞれのビジネスモデルについて検討した。近年の新業態の急成長を可能にした要因として、眼鏡技術者が長年をかけて磨いてきた眼鏡づくりの技術(視力調整技術・フィッティング技術)を短期間で習得しマニュアル化するノウハウの存在があることが明らかになった。そしてそれを可能にしたのが眼鏡機器の機能向上であったことも確認できた。さらにもう一つの発見は、家電・カメラ・家具・食品スーパー・酒などの業界においては大規模小売業の成長が伝統的独立小売店を淘汰することによって流通システム変動が発生したのに対し、眼鏡業界では革新的な新業態の成長だけが流通システム変動の原因ではなく、むしろより重要な他の要因が存在する可能性があることが示唆されたことである。すなわち、新業態の成長それ自体が、別の要因ーたとえば海外におけるレンズ・フレーム生産システム変動・眼鏡機器の機能向上ーによって可能になったのであり、いわば他律的に規定されてシステム変動が発生した可能性がある。 眼鏡流通システム変動は複雑かつ多様な要因によってもたらされるという想定に立つ本研究は、まさにその多様な要因を一つ一つたどることによってのみ研究目的を達成することができると考えられる。その意味で、昨年度・本年度の研究はまさに想定通りの研究ステップを経つつあると判断できるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題解明のために、今後は次のような研究ステップでさらなる探求を継続する予定である。 1.眼鏡流通システム変動によってもっとも大きく影響されたのは眼鏡卸売業者である。本来の卸売機能を奪われ、新たな存続の道を探らざるを得ない状況に追い込まれていると同時に、その新たな道をたどることがかえって眼鏡流通システムに混乱を生じさせている側面があると考えることができる。そのため、産地および消費地の卸売業者へのインタビュー調査を実施することによって、なぜどのような背景で機能を奪われることになったのかを明らかにする。 2.新業態の成長を可能にした要因として、海外におけるレンズ・フレーム生産システムの変動が考えられる。従来はフランス・ドイツが眼鏡生産の中心であったが、近年ではイタリアが完全に世界のリーダーに躍進している。その影響が日本の眼鏡流通システム変動に大きな影響を与えている。そのため、イタリア成長の歴史と背景について検討する。 3.伝統的独立小売店は人知れず淘汰されつつある。とはいえ、苦境の中でがんばる小売店は存在する。はたして変動に飲み込まれず生き残るための戦略にはどのようなものがあるのかを成功事例を調査することで明らかにする。 以上の分析を通じて、眼鏡流通システム変動を説明する枠組みを提示する。
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