2015 Fiscal Year Research-status Report
集約した会計情報のコスト・ベネフィットに関する理論的・実証的研究
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15K03769
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
椎葉 淳 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (60330164)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 集約 / 非集約 / セグメント情報 / 情報開示 / 現在価値関係 / 分散分解 / コスト構造 / 企業リスク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、会計プロセスのなかで集約(aggregation)に着目し、そのコスト・ベネフィットを理論的・実証的に考察することである。これまでの研究成果は以下の通りである。 第一に、集約のコスト・ベネフィットに関する含意を実証的に検証することを念頭に、セグメント情報の開示の文脈に焦点を当て、全社利益の開示とセグメント別利益の開示のケースを比較した論文を完成させ、会計ジャーナルに投稿中である。この論文は、資本市場における株価形成と経営者の努力選択の関係をモデル化し、(1)セグメント別の業績を開示するケースと、(2)各セグメントの業績を集計した全社的な業績のみを開示するケースとを比較し、特に、経営者が資本市場を意識して効用が最大になるような開示意思決定をしたとき、セグメント別開示はしないけれども、そのときに企業価値最大化の観点から株主にとっても望ましい状況があることを特定している点で、実証研究におけるエージェンシー・コスト仮説を精緻化した内容となっている。 第二に、現在価値関係に関する研究ノートを完成させるとともに、"What Moves Firm Values"と題する共著論文も完成させ、研究会・学会において報告を行なった。この論文では、分散分解の手法を適用して,企業レベルのリターン及び株式リターンの変動を引き起こす要因として,事業利益ニュースと割引率ニュースのいずれのニュースがより重要であるかを実証的に考察している。特に、利益の構成要素の情報内容を検証する新たな方法を提案している点で、利益情報の集約・非集約を実証的に検証する新しい方法を提示している。 第三に、変動費と固定費の比率というコスト構造の特徴と、企業リスクとの関係に関するサーベイ論文を執筆した。総費用か変動費と固定費の分解かという点で、売上原価に関する集約と非集約の比較に関する研究となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究実施計画では、(1)これまでの会計情報の集約・非集約に関する分析的研究をサーベイし基本モデルを提示すること、(2)セグメント情報の開示について、資本市場の設定におけるモデル分析を展開し、実証研究における従来のエージェンシー仮説を精緻化すること、(3)実証研究については、セグメント財務データおよび企業の主要取引相手に関するデータの収集・整理、(4)セグメント情報の実証研究に関するサーベイ、の4つを挙げていた。 それぞれの進捗状況について、まず(2)については、論文を完成させジャーナルに投稿中である。(3)については、セグメントの財務データの収集・整理は終えており、主要取引相手に関する情報の収集は2012-2013年について行っている途中である(2000年から2011年までは収集済み)。(4)については(2)の論文の執筆の際に一通りの実証研究の論文をサーベイした。 以上に加えて、研究実績の概要に記したように、現在価値関係に関する研究とコスト構造に関する研究にも取り組み、学会報告などを行なっている。これらは、集約・非集約に関する主要な研究テーマといえるし、またそれぞれ財務会計と管理会計の重要なトピックでもある。 一方で、研究実施計画において最初に挙げていた(1)については、上記の個別テーマを先に進めた結果、全体のサーベイをまとめる作業は進めることができなかった。この点では、予定とは異なり遅れているが、上述のような現在価値関係およびコスト構造に関する研究を予定外に進めることができたので、全体としては「おおむね順調に進展している」と評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は、当初の計画通り、理論パートについては、(資本市場ではなく)製品市場の設定におけるセグメント情報の開示モデルを新たに展開する。また、初年度の2015年度に進めることができなかった「これまでの会計情報の集約・非集約に関する分析的研究をサーベイし基本モデルを提示すること」についても取り組む予定である。 一方、実証パートについては、資本市場の設定におけるセグメント情報の開示モデルに関する論文が完成しているので、実証可能な含意をまとめるとともに、データによる検証を進める。また、セグメント情報を直接に利用するものではないが、現在価値関係に関する研究についても、実証分析を進め、論文を完成・投稿する予定である。さらに、コスト構造に関する研究についても、初年度に先行研究のサーベイを終わらせているので、データを用いた実証分析を進めたい。特に、収集している主要取引先データを利用し、主要取引先企業の存在がコスト構造に与える影響について検証する予定である。なお、現在価値関係およびコスト構造に関する研究については、当初の研究計画にはなかったが、会計情報の集約・非集約を考える上で、セグメント情報と同様に重要なトピックであるとの認識に至っており、当初の他の予定内容と並行して進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
申請時点(2014年10月)においては、2015年度に海外学会に複数回参加予定であったが、一度も参加することができなかった。また、2016年度、2017年度に海外学会に参加・報告をしたいと考えているため、次年度以降に予算を残すことに予定を変更した。 2015年度に海外学会に参加できなかった理由は、2014年9月に産まれた子供の育児に予定していたよりも忙しくなり、海外学会に参加するなど数日間の期間、家を空けることが難しかったことによる。なお、子供は2016年度に2歳、2017年度に3歳となるため、徐々に海外学会に参加できる状況になると、現時点では判断している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の予定よりも、2016年度、2017年度に海外学会に参加・報告する回数を増やす。
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Research Products
(4 results)