2016 Fiscal Year Research-status Report
集約した会計情報のコスト・ベネフィットに関する理論的・実証的研究
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15K03769
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
椎葉 淳 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (60330164)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 集約 / 非集約 / セグメント情報 / 情報開示 / 租税回避 / 利益移転 / コスト構造 / 需要の不確実性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、会計プロセスのなかで集約(aggregation)という特徴に着目し、そのコスト・ベネフィットを理論的・実証的に考察することである。平成28年度の実績は次の通りである。 第一に、セグメント情報の開示の文脈に焦点を当てた論文2本に取り組んだ。1つは前年度から継続している"Voluntary Disclosure and Value Relevance of Segment Information" と題する論文であり、2016年8月にアメリカ会計学会で報告し、現在は海外ジャーナルに投稿中である。もう1つは"A Theory of Tax Avoidance and Geographic Segment Disclosure" と題する論文であり、2017年3月の日本ディスクロージャー研究学会・第2回JARDISワークショップで報告した。両研究ともに、(1)セグメント別の業績を開示するケースと、(2)セグメントの業績の合計である全社の業績のみを開示するケースとを比較している。前者の論文では、経営者が資本市場を意識して行動したとき、セグメント別利益を開示しない方が経営者にとっても株主にとっても望ましい状況を特定した。後者は、多国籍企業を念頭に、税率の異なる国際間の利益の移転に焦点をあて、どのような状況でセグメント間の利益移転が行われるかを考察している。 第二に、環境の不確実性が、変動費と固定費の比率というコスト構造にどのような影響を与えるかについての実証論文を執筆し公表した。先行研究と同様の分析方法を日本企業のデータに適用し、需要の不確実性が高くなるとより硬直的な(固定費割合が大きい)コスト構造を企業は選択するということなどの証拠を提示している。これは総費用か変動費と固定費の分解かという点で、売上原価に関する集約と非集約の比較に関する研究となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は取り組む課題として以下を設定していた。まず【課題A】は、会計情報の集約・非集約に関する分析的研究をサーベイした上で、コスト・ベネフィットを考察する基本モデルを提示することである。また具体的なトピックを想定した理論分析として、【課題B-1】は資本市場の設定におけるセグメント情報の開示モデルを展開し、エージェンシー・コスト仮説を精緻化する。また【課題B-2】は、製品市場の設定におけるセグメント情報の開示モデルを展開し、機密コスト仮説を精緻化する。一方、実証分析として【課題C】は、理論分析の進捗に合わせて、セグメント情報開示という具体的な文脈での実証研究を進めることである。 2年目にあたる2016年度の研究実施計画では、【課題B-2】と【課題C】を中心に進める予定であった。しかし、【課題B-1】を進めるに際して、利益移転に関する重要な研究を行うことが可能であることに気づき、研究実績の概要に示した論文を執筆することに時間を使った。このため、製品市場の設定における理論分析が予定よりも進まなかった。実証パートでは、前年度から継続している、コスト構造に関する集約・非集約に関する研究に取り組み、実証分析をおこなった論文を公表した。この論文は実証分析であり【課題C】に関連するものではあるが、既存の理論枠組みを前提にしている点では当初の計画からみると満足できるものではない。しかし、セグメント情報開示の理論モデルの論文2本をジャーナルと学会報告に投稿している段階であり、理論モデルの修正をしていることから、直ちにここでの仮説を実証することを始めることは控えた方がよいと判断している。 研究計画の課題に沿った研究成果は挙げることができていると自己評価しているが、以上の理由から、当初の研究計画からみると「(3)やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2017年度は、【課題A】として設定した、会計情報の集約・非集約に関する分析的研究をサーベイした上で、コスト・ベネフィットを考察する基本モデルを提示することに取り組む。2017年6月のディスクロージャー研究学会の統一論題において報告を担当するため、この内容についてまとめる予定である。 具体的なトピックを前提とした研究としては、理論パートは、製品市場に関する【課題B-2】はあきらめて、資本市場の設定におけるセグメント情報の開示モデルに関する2本の論文に焦点を当て、エージェンシー・コスト仮説を精緻化する【課題B-1】に取り組む。特に、"A Theory of Tax Avoidance and Geographic Segment Disclosure" と題する論文は2017年5月のヨーロッパ会計学会、および同8月のアメリカ会計学会に投稿しアクセプトされており、報告予定となっている。これを含めた2本の論文について、ジャーナルへの掲載(承認)を目指して努力する。 実証パートは、初年度に取り組んだ現在価値関係に関する実証研究の論文を完成させることを目指す。これは事業利益と割引率の相対的な情報内容を分散分解を用いて検証する研究であるが、事業利益をキャッシュフローとアクルーアルに分解し、利益の集約・非集約情報を実証的に検証する新しい方法を提示することを含む内容となっている。2年目から最終年にかけて米国データを本研究費によって購入し準備を進めている。最終年度中に、米国データによる実証分析を行い、論文を完成される予定にしている。
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Causes of Carryover |
年度末(2017年3月)に英文校正を予定していたが、論文の完成が間に合わず、これに要する額を次年度に繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年にあたる2017年度には論文が完成する予定であるので、この英文校正に使用する予定である。
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Research Products
(4 results)