2017 Fiscal Year Research-status Report
ガバナンス・コントロールの可能性:競争力・価値創造・持続性のパラドックスの緩和
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15K03774
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大下 丈平 九州大学, 経済学研究院, 教授 (60152112)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 管理会計 / マネジメント・コントロール / パラドックス / ビジネス・モデル / コーポレート・ガバナンス / 取締役会改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、研究実績として、3つの成果がある。一つは研究題目「ガバナンス・コントロールの可能性」に沿って、6月に単著 「コントロールのパラドックスとビジネス・モデル:H.ブッカンのコントロール論を読み解く」を『経済学研究』第84巻第1号にまとめた。ついで、6月には南京大学での国際コンフェランスにおいて、コントロールのパラドックスとビジネス・モデルに関する報告を行った。また9月には「コントロールのパラドックスとガバナンス・コントロール―ビジネス・モデルの構築が意味するもの―」と題して、日本原価計算研究学会でガバナンスをコントロールするうえでビジネス・モデルが有効であることを論じた。 これら3つの成果はともに研究代表者の設定する4つの仮説のうちの最後の4番目のものに関わる研究であり、コントロールのパラドックス問題への解決の糸口として、これまでの経営戦略とマネジメント・コントロールとを繋ぐ位置にビジネス・モデルを持ってくるという考え方を採用するところに特徴をもっている。ビジネス・モデルがパラドックスを緩和することのできる一つの有効な方法として示されている。 こうした成果を得た段階で、企業統治改革の議論に注目した。そこでは企業統治改革が会社不祥事の防止といった守りの側面に目を向けながらも、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と企業価値の向上を図る「攻めのガバナンス」の立場を取っていることに焦点を絞った。そして本研究はここで、ガバナンス・コントロールという理念を具体化させる場を取締役会に見出した。まさにガバナンスの担い手である取締役会という場においてガバナンスをコントロールするシステムを追究する段階に到達したのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗状況を概ね順調と判断したのは、本年度において、ガバナンス・コントロールという理念を具体化させる場を見出したことに尽きるであろう。上述したように、ガバナンスの担い手である取締役会という場でガバナンスをコントロールするシステムを構想することができる段階に到達したことである。それによって、以下の4つの筆者の仮説をほぼすべてを論証する可能性を見出すことができた。 ①管理会計の発展は企業組織の経済的モデル化の次元で考えるべきこと、②マネジメントの主たる領域が技術・生産志向性から組織・市場志向性へと移行してきたことが、コントロールのパラドックス認識を進めたこと、③マネジメント・コントロール論をそのパラドックス状況に対応、緩和するための方法論の体系として再編すること、④企業不祥事、会計不正を背景とした内部統制論議はガバナンスをコントロールする方策を考えさせている(ガバナンス・コントロールの構想) さて、①に関しては、マネジメント・コントロールと管理会計との識別と関連を再認識できた。また、②に関して言えば、コントロールのパラドックス認識を進めたことが、管理会計やマネジメント・コントロールがこれまで与件としてきた条件を一つずつ解除してきたと捉えることにつながった。それは、コントロールのパラドックス論を初め、パッケージ論、管理会計「変化論」、BSC論、さらには戦略的管理会計論もそうした解除された与件の一つひとつを考察の対象としなければならなくなってきた事情を浮き彫りしていると言えるからである。また③は、まさにH.ブッカンのマネジメント・コントロール論の基礎であることは言うまでもない。最後の④は、まさにこれを受けて、代表者は上記の結論に達したのである。 以上から、研究の進捗状況を概ね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方策を次の2点にまとめることができる。 一つはガバナンス・コントロールの具体的な場としての取締役会に焦点を当て、その取締役会が担うガバナンスを規律付け、支援するためのコントロールのプロセスとシステムを考えていくことである。 ここ数年、企業統治改革の議論が盛んであるが、そこでは会社不祥事の防止といった守りの側面と会社の持続的な成長と企業価値の向上を図る攻めの側面をバランスさせることが要請されている。しかしながら、取締役会のガバナンスをコントロールするといった論点はほとんど提起されていない。そこで今後の研究は、フランス流のコントロールのパラドックス概念を軸に据え、そのパラドックスを緩和する一つの手段としてビジネス・モデルに焦点を当て、そのモデルをガバナンスのレベルにおいて活用する担い手である取締役会をコントロールするシステムを追究することになろう。 もう一つの方向は、企業を取り巻く内外の協同を維持する能力を高めることによって、内外の「情報要求の多様性」が突き付けてくるパラドックス状況をビジネス・モデルの構築・運用によって緩和する可能性を追究することである。その一つのモデル研究がMoquet (2010)による社会責任戦略コントロールの構想である。こうした環境や社会責任を組み込んだ新しいコントロール論が、先の第一の研究方向でみた取締役会での新しい機関設計とそれに応じた役割を担うことによって、会社不祥事の防止といった守りの側面と会社の持続的な成長、企業価値の向上を図る攻めの側面をバランスさせることができるであろう。 こうした点にこそが、最後の第4の仮説でいうガバナンス・コントロールの構想に関わって、今後の考察の焦点となろう。
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Causes of Carryover |
次年度に使用額が生じた主たる原因は、旅費のうち海外出張に伴う旅費部分を十分に活用することできなかったことである。 2017年の9月下旬にフランスのパリ第10大学とディジョンのブルゴーニュ大学に研究・調査に出かける準備をしていたが、議論の相手である両大学の先生方とどうしても日程が折り合わず、断念することになったのである。もっとも、実際に渡仏しての議論・ヒアリングはできなかったが、互いに研究論考を書き進めてきたし、この間、特にブルゴーニュ大学のグレゴリー・ベックマン教授は上海に仕事で立ち寄ったときに、短い期間ではあったが福岡に立ち寄り、研究課題について綿密な議論を行うことができた。さらに教授とは、次年度に再度、改めて議論を始めることを約束し、今度は私が2108年度に渡仏することを決定した。この間にいろいろとやり取りをする中で、2018年10月に東京の早稲田大学で開催されることが決定しているアジア太平洋管理会計学会(APMAA)で共同報告をすることを約束した。 また、現在、パリ第10大学のクズラ教授やパリ東大学のモケ教授とも連絡を密にし、次年度(2018年)に私が渡仏し、昨年度できなかったフランスのマネジメント・コントロール論とそれを踏まえた社会責任戦略コントロール論をめぐるヒアリングと議論をすることを準備している。それに伴って、次年度使用額は海外出張旅費に充当することになる。
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Research Products
(3 results)