2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K03780
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
森 美智代 熊本県立大学, 総合管理学部, 教授 (50220025)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河谷 はるみ 九州看護福祉大学, 看護福祉学部, 准教授 (90399767)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 日独医療改革 / 企業会計 / 国公立病院 / 国及び自治体の財政 / 経営組織 / 民営化 / 効率性とコスト削減 / コンツェルン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究計画は、国及び各自治体の財政が関係する国立病院と公立病院の経営改善に企業会計がどのような影響を及ぼしているかについて分析することである。その分析には、組織形態と「資本の部」が中心となった。 国立病院が独立行政法人化して運営費交付金が減少するなかで、国立病院機構の経営状況は全体的な借入金の減少にともない支払利息が減少している。各国立病院機構内では、本部を中心とした「資金の預託及び貸し出し」が実施され、自己金融の傾向がみられる。 他方、公立病院改革は自治体の財政健全化に向けて行われている。この改革は旧公立病院ガイドライン(2007年)と新ガイドライン(2015年)によって実施されている。新ガイドラインでは、経営の効率化が「医療の質」を高めるとしている。この改革によって決算書が作成及び公開されている。企業会計の経営分析指標が経営改善のためには重要な役割を果たしている。しかし一般会計からの繰出金処理は「資本の部」において公的会計処理が残されている。 近年、ドイツ16州の公的医療機関は民営化されている。この民営化は、形式的民営化と実質的民営化に分類できる。形式的民営化では、公的医療機関が有限会社形態に組織再編される場合が多い。組織再編された公的医療機関は企業会計を適用している。さらに各公的医療機関は州別に統合し、連結決算書を作成している。アウトソーシングされる業者(給食、清掃、クリニング等)は関連会社或いは子会社になることで、コスト削減されているが、この会社形態の選択が「資本の部」の連結外しにつながる。 一方、実質的民営化は、ドイツ4大民間医療機関(コンツェルン)が公的医療機関を買収する形態である。民間医療機関の買収は、欧州最大の民間医療機関に発展している。民間医療機関の「資本の部」(株式所有構造)には、製薬会社、保険会社および医療関係会社等間の買収が影響している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は計画的に研究を進めることができた。それは両国の医療を取り巻く環境と社会現象、保険制度等から分析のための共通の視点を見出すことができたことによる。会計上の問題として、国及び公立病院或いは公的病院の経営改善のため、企業会計を導入しているという共通の傾向が見られ、「資本の部」に企業会計と公会計の相違を見出すことができたことがある。その反面、医療機関の経営改善のための組織形態及び資金調達の方法には、我が国には見られない組織形態が、ドイツの公的医療機関にあることから、今後の研究課題を見出すことができた。しかしまだ効率性とコスト削減の経営改善が、「医療の質」に、どのような影響を及ぼすのかについての研究は、平成28年度で進めることになる。現時点では総務省の各自治体に対する公立病院改革ガイドラインが、公立病院の経営改善の影響をもたらし、2015年新ガイドランでは、医療経営の効率性が、医療の質を向上することになることを示唆し、その背景には、企業会計の経営指標による経営改善の政策がある。 また平成26年度新会計基準の適用による会計処理は、公立病院の「資本の部」の会計処理に影響を及ぼしている。熊本県内の「公立病院のあり方委員会」、「運営委員会」、「評価委員会」等のメンバーであることから、公立病院改革の内容について、インタビューによって確認できた。 さらにドイツの医療機関関係者にもインタビューでき、ドイツ経営経済学会の研究者との意見交換することで、日独の医療改革の比較検討ができた。 以上のような理由で、平成27年度の研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
我が国の国立病院機構及び公立病院は、医療という領域に限定した組織形態である。一方、ドイツの公的医療機関は医療、介護、福祉施設及びリハビリ施設等を併設する組織形態をとっている。このような両国の組織形態の相違は、保険制度からくるとされている。そのため医療保険及び介護保険の支払いの仕組み、診療報酬の支払いの仕組み、また補助金の支払いの仕組みが日独医療改革における経営改善にどのような影響を及ぼしているかに焦点をあてて研究を実施する。またその相違は、「医療の質」にどのようの影響を及ぼすのか、或いは患者への影響について探究する。 以上の研究計画には、文献及び報告書から得られることの他に、日独の医療関係者へのインタビューをまとめ、現場での再確認をしながら、過去の決算書の数値を基礎として、決算書におけるコストと収益の「医療の質」への影響について、統計的な分析をとおして、医療経営の改善と管理の観点からのコメントをまとめる計画である。
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Causes of Carryover |
平成27年度の研究計画における学会報告のための国内外でのインタビューの謝金及び資料収集に支出した金額が計画よりも少なかったために、次年度に繰り越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度には、研究を論文にまとめるために文献及び報告書等の資料から得た内容を現場でのインタビューによって確認するための謝金として、また文献及び資料収集のために支出する。その他に、繰り越した残高は新しい文献の購入に充てる。
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