2016 Fiscal Year Research-status Report
「両利き」事業部の組織特性およびMCSの設計と利用に関する研究
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15K03789
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
福田 淳児 法政大学, 経営学部, 教授 (50248275)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 両利き経営 / MCS / 探索志向の学習 / 活用志向の学習 / バランス |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度実施した文献レビューに続き、管理会計また経営学領域における両利き経営に関連する文献レビューを行うとともに、企業数社へのインタビュー調査を実施した。探索学習志向と活用学習志向の双方を追求している両利き企業におけるMCSの利用方法について,文献のレビュー及び企業へのインタビュー結果に基づいて仮説の設定および質問項目を作成することが目的であった。しかしながら,過去に行われた研究において取り上げられてきたMCSのタイプは多様であり、またそこから導出された結果にもかなりの矛盾が見られた。特に、従来の研究では、Simons (1995, 2000)によるコントロール・レバーのフレームワークに基づく研究がある程度蓄積されているが、そこでは診断的なコントロールとインターアクティブなコントロールが対立的な要素を有することが前提とされてきた。しかしながら,実証研究の結果は必ずしもそのような仮説を支持するものにはなっていない。これらの矛盾を解決するために,どのように質問票調査を設計すべきかについて考察するために、インタビュー調査を追加的に実施した。また、従来の研究では、MCSの利用方法の違いまたはその組み合わせが業績に結びつく状況が必ずしも明確でない。両者をmediateまたはmoderateする変数がどのようなものかを明らかにすることが必要である。なお,今年度行ったインタビュー調査は大企業の事業部とほぼ規模的に同等と考えられる中小企業の中でも中小企業優秀新技術・新製品賞の受賞企業を中心に実施した。これらの企業は既存技術の改善とともに新技術の開発にも積極的に取り組み成果を上げている企業であると考えられるためである。これらの企業では、トップ・マネジメントの強いリーダーシップのもと新技術の開発が行われている。また,既存技術の改良は新技術開発の後段階であるとの考え方も見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
管理会計また経営学の分野における組織学習,特に探索学習,活用学習及びその両者をバランスよく追求している両利き経営に関わる文献のレビューを積み重ねるプロセスで、それらの一連の研究で取り上げられてきたMCS及びそれらと組織業績との間の関係についての蓄積された成果に関して、研究間でかなりの矛盾があることが明らかとなってきた。これらの矛盾した結果を解釈する上で,どのような理論が必要とされるのか,またそれらの理論に基づきどのような仮説の設定を行うか,またそれらの多様な観点を質問票の質問項目に落とし込む際にどのように行うべきであるかをかなりの時間を使い検討することが必要であると判断した。同時に,それらの点を考慮した質問項目またその質問項目の記述について,実務に携わる回答者が理解可能であるかをインタビュー調査を通じて確認する作業に時間を要した。インタビュー調査は,中小企業優秀新技術・新製品賞の受賞企業を中心に数回にわたり実施した。インタビューの実施の際に,質問票で利用する予定の質問項目をいくつか利用することで,聞き取りを行った,それらの質問項目に対する回答が当初研究代表者の意図していたものであるかどうかを検討した。わかりづらい場合または意図したこととは異なる趣旨の回答があった場合には,次回のインタビューにおいて具体的な質問の仕方を変更することで改良を試みた。 これらの作業に時間を要したために、当初の計画では2年度目に実施する予定であった質問票調査に時期的な遅れた生じた。このことが「(3)やや遅れている」を選択した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は両利き経営を志向する事業部を対象とした郵送質問票調査を実施する予定である。質問票調査の対象は東証1部、2部上場企業の事業部またはカンパニーであり,回答者として事業部長(カンパニー社長)または事業部(カンパニー)のトップ・マネジャーの一員を想定している。質問票調査では、両利き経営を志向している事業部において,Simons (1995, 2000)が主張するコントロール・レバーのそれぞれがどの程度用いられているのか,またそれらのレバー間にどのような関係が見られるか、さらに従来の研究ではあまり考慮されてこなかった非公式的なコントロールとの間にどのような関係性が見られるかを明らかにすることが大きな目的である。特に,これらの特性の違いが,探索または活用のいずれかのみを志向する事業部と両利き経営を実施している事業部との間でどのように異なるのかを明らかにすることが重要である。従来の研究においても,研究の必要性が指摘されているコントロール・レバー間の「バランス」の概念について,非公式的なマネジメント・コントロールも含め質問項目に落とし込む予定である。これは従来の管理会計研究ではSimons (1995)の定義に従いMCSを公式的なものに限定しているが、実際には組織の中で機能するコントロールは多様である点を踏まえたものである。公式的なMCSは非公式的なコントロールを含む多様な組織的な要因とバランスをとることによって両きき経営を志向している可能性がある。これらの点を明らかにすることで,従来の研究での矛盾した発見事項が解消される可能性がある。 また、質問票調査及び大規模企業の事業部または中小企業とのインタビューに基づく発見事項を論文並びに学内で開催予定の講演会などを通じて、公表することが今年度の研究の予定である。
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Causes of Carryover |
両利き経営に関わる管理会計また経営学領域での文献のレビューを実施するプロセスで,それらの一連の研究で取り上げられているMCSがかなり多様であること,またそれらのMCSのサブシステム間の関係や組織業績との関連などについても,研究間にいくつかの矛盾があることが判明した。これらの矛盾点を説明しうる理論を明らかにするとともに,その理論に基づく仮説の設定などを実施したのであるが,それらの作業に予定していた以上に時間を使用したため,郵送質問票調査の実施が遅れた。このため,次年度使用額が生じた。次年度は,文献レビューを継続するとともに,郵送質問票調査を実施する。 さらに,当初はアメリカ会計学会に参加し,意見交換を行う予定であったが,今年度中に質問票調査やインタビュー調査において一定の成果が出る見込みが立たなかったことを踏まえ,これを次年度に延期することとした。このために,次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は,東京証券取引所1部または2部に上場している企業の事業部またはカンパニーのトップ・マネジメントを対象として「両聞き経営を実現しているMCSの設計とその利用」に関する郵送質問票調査を実施する予定である。現時点では製造業または非製造企業も含め質問票調査を実施する予定である。これによって,公式的なマネジメント・コントロールと非公式的なコントロール間のバランスを含め多様なコントロールの下位システム間の関係及びそれらと組織業績との関係性を明らかにする予定である。 また,郵送質問票調査また次年度においても実施予定の企業へのインタビュー調査を踏まえ,8月にサンディエゴで開催される予定のアメリカ会計学会に出席する予定である。 これらの研究計画の実施のための費用として,次年度使用額を使用する予定である。
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