2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03801
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
川原 尚子 近畿大学, 経営学部, 教授 (40511184)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 企業の社会的責任(CSR) / 情報開示 / サスティナビリティ(持続可能性)情報 / 社会環境影響 / インドネシア / 社会環境報告 / 統計分析 / 社会影響評価(SIA) |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実績として主著論文3本を取り纏めた。7月公表の論文「企業の社会的責任の情報開示の誘引に関する理論-文献レビュー」では企業の社会的責任(CSR)の情報開示の誘因に関する代表的理論の特徴と課題を明らかにし、実証研究と新たな理論構築の必要性を示唆した。決定的な理論が未だない中で新たな理論構築を示唆した面で意義深い。12月公表の論文「国際影響評価学会の指針から示唆されるアジアの社会影響評価(SIA)の実施における課題」ではインドネシアと中国での事例研究によりSIA実施の課題を検討し、それに関連して国際影響評価学会(IAIA)の「社会影響評価:プロジェクトの社会影響の評価とマネジメントの指針」(2015)を本邦初で検討した。近時刊行の論文「インドネシア上場鉱業企業の持続可能性報告の現状と課題」では法制度を踏まえ、上場鉱業企業の持続可能性報告の現状を適時に内容分析し課題を検討した。この分野の研究が限られている中で実証的知見を公表できたので意義深い。 一次情報収集のため、10-11月にインドネシアのジャカルタで専門家と企業担当者にインタビューを実施し、本研究課題を有効に進めるための貴重な知見が得られた。 研究協力者である愛媛大学准教授入江博士およびIAIA会長のEsteves博士とともに、5月に「Social impact assessment challenges faced by Japan」をIAIAで発表し、8月に論文「Review of the concepts, methodologies, and validity of Social Impact Assess- ments and their implications for Japanese impact assessments」も環境アセスメント学会誌で公表した。SIAの重要性と課題を明らかにしており意義深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までの研究は当初の計画通りおおむね順調に進捗しており、研究実績の概要で述べた通りの成果を出している。前年度においては、インドネシア現地への渡航上の危険性、とりわけ現地の治安情勢について不確実な状況が多々あったため、現地調査をあえて延期させた。しかし、本年度においては、現地の治安状況の情報入手や安全確保のための手立てを慎重に選び準備に時間をかけて渡航した結果、10-11月に現地で重要な関係者へのインタビューを実現できた。これにより、当初予定していた現地での一次情報の入手が可能となり、本研究を有効に進めていく上での貴重な知見を得ることができた。特に、現地でこの分野で歴史をもち、政府省庁へのネットワークのある専門機関の専門家と直接面談できたことで、重要な情報を得られた。また通常、国外からインドネシア企業にアクセスすることが難しい中で、研究協力者であるジャカルタ市内の大学の研究者や、大手国際会計事務所の人的ネットワークによる協力を得て、ようやくインタビューが実現できた。その結果、インドネシア独自の歴史的、文化的、法制度的、および経済的背景、並びに企業風土やビジネス慣行についての本研究課題に関する情報は、直接に面談することでしか得られない、文献研究では通常得ることが非常に困難な内容であり、誠に貴重な知見を得られた。 さらに本研究における重要なテーマである社会環境影響評価について、国際的に有力で著名な研究協力者の支援を得ることができ、その結果、国際学会での発表や国内学術雑誌での論文公表の機会も得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度においては、これまで得られた知見をもとに、実証的研究を進めていきたい。インドネシアと日本の社会情報開示の比較や、インドネシア企業の社会環境情報開示の社会的意義などに焦点を当てた研究を推進していきたい。 インドネシアと日本の比較研究では、現地の研究協力者と連携しながら取り纏めていきたい。また実証的研究に不可欠な統計的手法の適用について、研究協力者の支援を受けつつ、慎重に検討していきたい。実証的研究で、資料収集後の分析や論文執筆に時間がかかることが予想されるが、その場合には翌年以降に取り纏めていきたい。 実証的研究のため、インドネシア企業の社会環境情報の受け手となりうるインドネシアの社会の人々の認識や情報開示へのニーズを広く調査することも検討している。その際に、現地の事情に精通した専門調査会社を利用していきたい。特に、インドネシア特有の事情を考慮し、実際に現地のネットワークやリソースをもつ専門調査会社の協力を得ることを検討している。このような調査会社の選定にも時間がかかることが予想される。そして一部の調査実施や回答の取りまとめについては、このような会社へ依頼しつつ、研究代表者と研究協力者が分析と検討を行っていくこととしたい。調査依頼には比較的多額の委託料の負担が予想される。また調査にあたり、パイロットテスト、フォーカスグループディスカッション、個人面談でのインタビューを複数回行うことで有効な調査票を作成していきたい。その際、相手との日程調整や面談のための出張などに時間が相当かかることや、旅費交通費、研究協力の謝金の負担が予想される。 以上、実証的研究の調査手法の選定作業の特殊性や、インドネシアの特殊事情に鑑み、研究協力者や調査委託会社との作業進捗によって、執筆や学会発表を最終年度以降に行う可能性もあるが、できるだけ深度のある研究を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、インドネシア人を広く対象とした調査を実施するため、外部の専門調査会社に調査内容の一部を委託することを想定し、昨年度および今年度とともに支出をできるだけ抑制してきたことにより生じている。昨年度において、複数の調査会社に調査委託を折衝した際に、現地調査の見積費用が多額になることが予想され、単年度予算ではかなり不足していることが明らかとなった。そのため、一部の研究調査方法を工夫しつつ、累計予算の範囲で、研究課題を達成するよう検討を重ねてきた。 インドネシア渡航の際の治安情勢の不確実性があり、安全を重視した場合の渡航費用は少なくないことから、今年度は慎重に渡航時期を選定した。また事前準備を周到に行い、現地の研究協力者やその他の関係者の支援を得て、短期間の渡航で集中的に調査を実施できるように調整し、計画通りに実施できたため、使用額を比較的少なく抑えられた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
インドネシア人を対象に、インターネットを利用した調査も検討している。その際、インドネシア人が判読可能な言語への翻訳、回答し易い画面設計、回収資料を迅速に分析できるシステム、インドネシア国内での多数の潜在的回答者のリソースなどが重要となる。これらの条件を可能とする専門調査会社を選定し、調査委託料に助成金を使用していきたい。 調査実施において、調査内容を慎重に決定し、十分な調査票を作成するには、事前の情報収集が不可欠となるので、フォーカスグループディスカッションや個人面談も予定している。この情報収集や検討作業を有効に行うための旅費交通費や謝金に助成金を使用していきたい。一次情報を収集した後に、その分析、検討、執筆に時間がかかる場合でも、最終年度以降も引き続き成果を取り纏めて、学術論文雑誌へ投稿することとしたい。
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Research Products
(5 results)