2017 Fiscal Year Research-status Report
住宅市場の民営化と社会経済的格差に関する実証研究―複合的アプローチによる国際比較
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15K03826
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Research Institution | Momoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
村上 あかね 桃山学院大学, 社会学部, 准教授 (20470106)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | オランダ / 日本 / 住宅市場の民営化 / 社会住宅 / 社会経済的格差 / パネル調査 / インタビュー / 混合研究法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、住宅市場の民営化が進行する日本において、住宅の所有形態が社会経済的格差に及ぼす影響とそのメカニズムを明らかにすることである。住宅市場に占める社会住宅のシェアが大きいオランダとそのシェアが小さい日本について、量的調査(パネル調査)および質的調査のデータを比較する複合的アプローチを用いることで、日本の特徴を明確に析出する計画を立てた。 平成29年度は、オランダにおいて、1)資料蒐集(書籍、新聞、雑誌、チラシ、ニュース、公的統計など)と、2)現地調査(インタビュー、ホームビジット、フィールドワーク、参与観察、政党関係者へのヒアリング)を行った。調査対象者の選定にはスノーボールサンプリングを用い、調査方法としてはライフヒストリー法を援用した。オランダでの在外研修期間にあわせて調査実施期間を変更したことで、調査対象者数の増加、調査対象者の多様性の増加、住宅の外観だけではなく内部の観察などが可能になり、応募時の計画よりも充実した現地調査を行うことができた。 その結果、最新の住宅市場の動向、社会住宅および家賃補助制度の位置づけとその変遷、今後の見通しを踏まえつつ、調査対象者やその家族の人生における住宅の役割と主観的な意味づけ、生活実態を理解することができた。さらに、両国の住宅市場、土地所有制度、住宅金融、女性の経済的貢献と資産形成の共通点と相違点が明らかになった。 これらの質的調査データはそれ自体が貴重なものであるとともに、今後、両国の量的調査(パネル調査)データを分析して考察するうえで有益な示唆に富むものである。そのほか、3)日本の量的調査(パネル調査)の分析結果や両国の住宅市場の概要について国際学会等で報告し、貴重なコメントと今後の研究の発展につながるネットワークを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず、質的調査の協力者・対象者を探すことに時間を要した。社会住宅居住者が主な対象であり、慎重に協力を依頼する必要性があったためである。調査会社に委託せずに対象者を選定したことも遅れをもたらす要因とはなったが、結果としてより多くの対象者にアプローチすることが可能になった。 さらに、調査の実施にあたり、日本の所属機関の研究倫理委員会に申請したため、諸手続きや審査に一定の時間を要した。調査協力者・対象者に配布する資料を日本語・英語・オランダ語の3つのバージョンで用意したことも従来の調査に比べて時間を要する一因となったが、いずれも適切な調査の遂行にあたって重要なプロセスだと判断したため、慎重に進めた。 量的調査(パネル調査)データ分析のためにEurostatに利用申請を行ったが、申請手続きが大幅に変更になったこと、Eurostatが求める情報セキュリティを確保するために、Eurostatおよび日本の所属機関との密な連絡・調整を行った。この連絡・調整も本研究を適切に実施するうえで不可欠な作業であった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度であるため、インタビュー調査をさらに数件実施したのち、これまでの資料蒐集と質的調査で得たデータを分析し、論文を執筆する。使用言語は日本語および英語である。あわせて、Eurostatが提供する量的調査(パネル調査)データの2次分析を進める。これらの成果を国内の学会やISAなどの国際学会で報告する。研究の知見とその意義を広く社会に発信・還元するため、2018年夏に日本で国際ワークショップや講演を行う。 研究の実施にあたっては、日本の所属機関などの研究倫理、さらに2018年5月25日から施行される「EU一般データ保護規則」(GDPR)にも十分に留意する。
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Causes of Carryover |
調査会社への委託は予算上また対象者の選定上困難であることが判明したため、委託を取りやめて在外研修期間中に構築した独自のネットワークで現地調査を行った。また、オランダ語の調査資料の作成を翻訳会社ではなく、オランダ語・英語・日本語に堪能な協力者に依頼した。それにより、調査にかかわる諸経費を効果的に使用することができた。次年度使用額は追加調査、テープ起こし、ワークショップ・講演、国際学会エントリーのためのネイティブチェックに用いる。
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Research Products
(3 results)