2015 Fiscal Year Research-status Report
「労働市場の社会学」からの民間職業紹介ビジネスの研究
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15K03839
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小川 慎一 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 教授 (30334618)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 労働市場の社会学 / 制度的アプローチ / 転職 / 職業紹介 / 情報技術 / 人事労務管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の労働市場における制度的側面について、”Sociology of Labor Market in Japan: An Institutionalist Approach”のタイトルで、第13回東アジア社会学者ネットワーク会議にて発表した。日本の労働移動の経路は個人的ネットワークよりも、広義における組織による仲介が多いこと、移動先企業の従業員規模により移動経路に違いがあることを確認した。個人的ネットワークを介した転職に研究者の注目が集まりがちであるが、少なくとも日本において、広告や公共職業安定所など組織による仲介を経由した転職が多いという基本的事実を、厚生労働省「雇用動向調査」を踏まえて示した。 そのうえで、1990年代に原則自由化された日本の民営職業紹介事業を経由した転職が、それほど増えていないことを示した。その大きな要因として法律によって民営職業紹介事業の経営が規制されていること、具体的には求人企業や求職者から徴収する手数料の上限が定められていることを確認した。 日本の人事管理と情報技術との関係について、「情報技術と人事労務管理――2000年代以降を中心に」のタイトルで、『日本労働研究雑誌』第663号にて発表した。同論文では人事労務管理で用いられている情報技術が,働きかたにどのような影響を与えているのか,また,労働者による情報技術の取り扱いに対して,人事労務管理がどのような方針を採っているのかについて概観した。採用管理,能力開発,テレワークを対象に検討したところ、企業規模や産業,個人の性別や年齢,職業など,社会的・経済的な諸属性によって,企業や個人の利用状況に差が見られた。 情報セキュリティ対策として,技術的なアプローチだけでなく,従業員教育や指針・規則の策定などの組織的な取り組みが実施されているものの,なんらかの困難を感じている企業も少なくなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
労働市場についての研究は社会学それ自体において、さまざまな分野に散在していることや、そもそも経済学での知見が圧倒的に多いことや、ミクロレベルにおける研究は心理学的なアプローチにも目配りする必要も想定されるため、社会学的な長所をどう生かすかが、大きな課題である。市場の社会学ということであれば、アメリカを中心とする海外の経済社会学の領域に研究が蓄積されているが、その知見を構成する理論的な背景を理解し、日本の文脈に照らして適用することも、難題となっている。市場を制度的に理解することは、社会的な規範や模倣といった「いかにも」社会学らしい概念のみを頼りにするだけでなく、法律や利益集団間の関係など、法学(あるいは法社会学)や政治学(あるいは政治社会学)が得意とする知見も参考にする必要がある。 経済社会学と政治社会学の交差する視点として、市場や組織の創出や再編成を社会運動として捉えるアプローチが蓄積されつつある。日本の社会学における研究背景に照らすと、労働研究と社会運動研究について相互の交流が少ないように見受けられる。研究対象に拘束されることなく、社会学的な発想に根差した研究を推し進めるための、理論上の検討も難題となっている。 研究対象に関しては、どのような順番でどの対象や事例について調査・分析していくのかが、難題となっている。たとえば、職業紹介や求人広告など人材ビジネスを展開する企業の個別事例を探るとすれば、その業界の全体像を統計データの分析などにより把握する必要があるものの、この双方の理解は相互依存的である。民営職業紹介について理解しようとすれば、公共職業安定所の事業内容や経緯について理解する必要もあるし、やはり理解は相互依存的である。近年の状況を知るには歴史的な経緯を知る必要があり、日本における入職経路の特徴を把握するには海外事情も把握する必要があるなど、課題が山積している。
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Strategy for Future Research Activity |
理論的にも研究対象的にも解決が必要な論点が交錯しており、それらをひとつずつ逐次的に処理していくことは、確実に研究成果を生産していくうえで、現実的ではない。複数の課題を同時併行的に処理していくことが、今後の研究の推進にとって有効な方策である。 理論的には、海外の経済社会学と政治社会学とが交差する領域において、既存研究の知見を整理する作業を進めていきつつ、日本における研究文脈において労働市場がどのように捉えられてきたのか、社会学以外の分野を含めて少しずつ整理していく予定である。 研究対象については、さしあたりは過去の民営職業紹介事業の創業に関わった企業や、監督官庁である旧労働省の担当部署について歴史的な資料や証言を集めつつ、現状についても資料や証言を集めていく。 日本の労働移動の特徴を知るためには、海外の特徴について調べる必要がある。海外の該当する研究や調査について情報を収集していく作業を、日本について調査する作業と同時併行的に進めていく。 企業の個別の事例を理解するために、統計データにより包括的に労働移動を把握する必要がある。ウェブで公開されていない過去の統計データを、表計算ソフトウェア等に入力していく作業も少しずつ進めていく。
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Causes of Carryover |
理論的にも研究対象的にも解決が必要な論点が交錯していることがあり、その解決策を探るための文献収集と読解に手間取った。そのため、調査に伴う旅費の支出が発生していないことが、次年度使用額が生じた大きな要因となっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は調査により旅費の支出や、統計ソフトウェアの更新に伴う支出が発生すると見込まれる。本年度と同様に、文献収集に伴う支出も引き続き発生する見込みである。
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Research Products
(2 results)