2015 Fiscal Year Research-status Report
日本のフリースクール運動における社会的公正と自由な学び:新自由主義的政策との合流
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15K03840
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
高山 龍太郎 富山大学, 経済学部, 准教授 (00313586)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フリースクール / 不登校 / 就学義務 / 教育義務 / 義務教育 / 教育機会 / 教育制度 / 新自由主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年5月以降、「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」(多様機会法案)が大きな話題となった。この法案は、保護者の作成する個別学習計画を市町村教育委員会が認定することを条件に、不登校の子どもが学校外で学ぶことを義務教育として認め、経済的支援も含めて国等が支援することを目指していた。この法案が成立すれば、一条校以外での義務教育が可能になり、新しい学習権保障のかたちを開く可能性があった。しかし、さまざまな賛否の声があがり、法案成立を目指していた議員連盟は、2015年9月、国会上程をあきらめた。2016年になり、同じ議員連盟は、就学義務の履行を一条校に限るという修正をおこなった「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案」(普教機会法案)の成立を目指している。 2015年度は、この多様機会法案をめぐる経緯について、フリースクール(FS)運動を中心にあとづけた。不登校の子どもが学校外で学ぶことは、いわば黙認による「保護者の費用負担による実質的な教育義務型」として行われてきた。FS運動は、2008年頃から、こうした現状を「国等と保護者の費用負担による完全な教育義務型」へ変えるための法律骨子案づくりを行ってきた。FS運動からこうした骨子案の打診を受けた議員連盟は、完全な教育義務型の実現は困難だと考えて、「個別学習計画の認定という条件づきの教育義務型」である多様機会法案の成立を目指した。「条件づきの教育義務型」は、完全な教育義務型を望むFS運動から見れば妥協だが、早くから賛成していた。しかし、自民党議員が「就学義務型の堅持」を主張したため、多様機会法案は見送られた。2016年の普教機会法案は「不登校対策として教育義務の意義を認める就学義務型」であり、FS運動にさらに妥協を求めるものだが、一歩前進という理由で賛意を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多様機会法案や普教機会法案をめぐる推進派や反対派の集会等に参加して、法案をめぐるさまざまな立場の意見を具体的に知ることができた。そうした作業を通して、今回の研究課題の中心的論点が、いわば黙認による「保護者の費用負担による実質的な教育義務型」という不登校の学習権保障の現状が法案成立によってどのように変わるかをめぐる立場や見解の相違にあることが見えてきた。すなわち、既に述べた不登校の現状は「規制もないが、支援もない」という一種の自由放任の状態であり、いわば新自由主義的な状況と言える。したがって、大きな制度改革を実現する法案が難しいと判断して「一歩でも半歩でも前に進めよう」と現状追認に近い現実主義的な対応を取ろうとすると、意図せざる結果として新自由主義的な現状が法律によって制度化されるというジレンマに直面することになる。法案を推進する立場にあったフリースクール運動はこうしたジレンマに立たされていたが、最終的には現状追認に近い現実主義的な対応を取った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究で明かにすべき焦点は、上記のようなジレンマのもとで、フリースクール運動が「なぜ現状追認に近い現実主義的な対応を取ったのか」である。そのために、法案成立をめぐる動きが一段落したところで関係者にインタビュー調査をおこない、そうした意思決定の過程について検討する予定である。そうすることで、フリースクール運動と新自由主義的政策の合流について具体的に考察することが可能になると思われる。
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Causes of Carryover |
法案成立に向けた状況が流動的だったため、当初予定していたインタビュー調査を、状況が落ち着くだろう次年度に実施を延期したので、次年度使用額が生じた。また、それに合わせて、当初予定していたノートパソコン等の機器購入も次年度に持ち越している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
法案成立(あるいは未成立)によって状況が一段落したところでインタビュー調査を実施するためにノートパソコン等の機器を購入するとともに、インタビューのトランスクリプト作成に研究費を使用する予定である。
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