2016 Fiscal Year Research-status Report
日本のフリースクール運動における社会的公正と自由な学び:新自由主義的政策との合流
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15K03840
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
高山 龍太郎 富山大学, 経済学部, 准教授 (00313586)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フリースクール / 不登校 / 就学義務 / 教育義務 / 義務教育 / 教育機会 / 教育制度 / 新自由主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年12月に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(教育機会確保法と略)が可決され、2017年2月に施行された。この法律は、当初の案(当初案)では、不登校の子どもについて個別学習計画の認定を条件に学校以外での義務教育の実施(教育義務型)を目指すものだった。しかし、さまざまな批判を呼び、成立した法律(成立法)は、個別学習計画の規定を削除して学校でのみ義務教育の実施(就学義務型)を認めるものになった。法律の内容は大きく様変わりしたが、フリースクール(FS)運動は、当初から一貫して推進する立場にあった。 2016年度は、この法律をめぐる関係者の意見について論点整理をおこなった。中心的な論点は、学習指導要領に拠らない「特別の教育課程」をめぐるものだったと整理できる。すなわち、「不登校が生じるのは教育課程の問題か」「特別の教育課程の編成は誰が主導権をもつのか」「特別の教育課程の実施は学校と学校外のどこで行うべきか」という論点が複雑に絡み合ったものだと言える。そして、これらを大きく包含するものとして、特別の教育課程は、学習指導要領等にもとづく「教育の機会均等」という原則を崩しかねないという論点があった。教育機会確保法を一貫して推進してきたFS運動は、不登校を教育課程の問題と捉え、不登校の子どものニーズに沿った特別の教育課程を、学校外でも義務教育として実施できることを望んでいたとまとめられる。 こうしたFS運動の立場を「新自由主義」と呼ぶにはためらいがある。確かに、FS運動は、特別の教育課程を学校外でも義務教育として実施できるようにすることを優先していたが、FSに通う子どもへの経済的支援もまた求めていたからである。FS運動は、法律の成立を優先して経済的支援が後回しになることを容認したが、それは運動の戦術的な理由によるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、教育機会確保法に関する集会等に参加して、法案をめぐるさまざまな立場の意見について具体的に間近で見てきた。この法律をめぐっては、さまざまな論点が絡み合い、同じ制度設計であっても条件次第で薬にも毒にもなる可能性があったため、かつて活動を共にしてきた人びとが推進派と反対派に別れるなど、非常にセンシティブな状況があった。そのため、関係者にインタビューをするにも、自分自身の見解をしっかり持つ必要があり、議論の論点整理に時間を費やすことになった。こうした論点整理は、インタビューの下準備として始めたものだが、義務教育制度や教育改革を根本的に考え直す良い機会にもなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年12月に教育機会確保法が可決され、2017年2月に施行された。文部科学省も、法律にもとづき基本指針を策定したり、省令を発したりした。これまで議論を錯綜させていた不確定要素も減りつつある。2017年度以降は、2016年度までに行ってきた議論の論点整理が実際に的を射たものなのか、関係者へのインタビューを通して検討していきたいと考えている。それによって、フリースクール運動と新自由主義的政策の合流が、実質的なものなのか、それとも、見かけ上のものに過ぎないのか、明確にできると考える。
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Causes of Carryover |
教育機会確保法をめぐって関係者の間に非常にセンシティブな状況があったため、当初予定していたインタビュー調査を状況が落ち着くまで延期した。そのため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年2月に教育機会確保法が施行され、法律にもとづき文部科学省も基本指針を策定するなど、状況は落ち着きつつある。したがって、2017年度は、関係者へのインタビューを精力的に行いたいと考えている。そのため、研究費は、インタビューのための出張旅費、および、インタビューのトランスクリプト作成に主に使用する予定である。
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