2017 Fiscal Year Research-status Report
日本のフリースクール運動における社会的公正と自由な学び:新自由主義的政策との合流
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15K03840
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
高山 龍太郎 富山大学, 経済学部, 教授 (00313586)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フリースクール / 不登校 / 義務教育 / 教育の機会均等 / 就学義務 / 教育機会確保法 / 新自由主義 / 教育改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(2017年2月施行、教育機会確保法と略)をめぐる関係者の動向と論点について検討した。そして、2015~2017年度の研究成果を、「学校外で義務教育を可能にする法律づくり──不登校の子どもの学習権保障をめざす市民運動と多様な教育機会確保法案」「教育機会確保法をめぐる論点の整理──ニーズ対応型教育課程という観点から」という2本の論文にまとめた(永田佳之編, 近刊, 『(仮題)変成する日本、そして世界のオルタナティブ教育』世織書房に収録予定)。 上記論文で指摘した教育機会確保法をめぐる論点は、学習指導要領に拠らずに子どものニーズを満たそうとする義務教育課程(=ニーズ対応型教育課程)は、(1)「誰にでも認めるべきか、一部の子どもにのみ特例として認めるべきか」、(2)「学校で実施されるべきか、学校外で実施してもよいか」(社会権的論点)、(3)「専門家によって編成されるべきか、当事者(子ども・保護者)も編成に関わるべきか」(自由権的論点)というものである。そして、フリースクール関係者の関心の焦点であり、他方で新自由主義的と批判された教育機会確保法13条の評価は、以下の通りである。「13条の定める民間団体等による学校外でのニーズ対応型教育課程の実施は、確かに、法律上は就学義務を前提とした不登校児童生徒への『特例扱い』だが、2017年2月14日の文科省令によって不登校児童生徒の認定はきわめて容易になった。ただし、国等による財政措置や経済的支援は貧弱で保護者の費用負担を前提としているため、学校外でのニーズ対応型教育課程は一部の豊かな家庭の子どもに限られる」というものである。つまり、義務教育の社会権的側面の議論を後回しにしたまま、文科省令によって教育課程の多様化・自由化が広範に進む可能性が開かれたということである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
教育機会確保法(教確法と略)の成立を受けて開催された集会等に参加して、この法律に対する期待や不安についてさまざまな立場の意見を聴取した。教確法の成立によって国による制度改革は一段落したものの、集会等での議論を聴く限り、改革に対する事実関係や意義について関係者の認識がまだ不十分であるように思えた。そこで、本年度に予定していた関係者への広範なインタビューは、関係者の認識が十分に深まり、かつ、教確法に基づく新しい動きが起こり始めるまで待つことにした。教確法は関係者の間で賛否が大きく分かれたので、関係者へのインタビューでは、聴き手の立場が関係者から厳しく問われると予想された。そのため、インタビューの時期を遅らせたことで生じた時間は、聴き手の立場を確固たるものにするために、教確法をめぐる動向を整理した論文の執筆に費やした。
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Strategy for Future Research Activity |
教育機会確保法(教確法)は、附則で施行3年以内(2020年2月まで)の見直しを規定している。成立した教確法のどの部分を修正すべきかをフリースクール関係者にインタビューすることによって、教確法への評価と義務教育制度の将来像を明らかにしたいと考えている。その際、義務教育の社会権的側面と自由権的側面のバランスをどのように考えているのかについて、重点的に掘り下げて聴き取りしたいと考える。そうすることで、フリースクール運動と新自由主義の異同を見極めることができると考える。
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Causes of Carryover |
教育機会確保法(教確法)が成立したものの、教確法への関係者の理解が必ずしも深まっておらず、教確法成立による新しい動きも見えてなかったため、当初予定していたインタビュー調査を延期した。そのため、次年度使用額が生じた。 教確法附則が定める施行3年以内の見直しは2020年2月が〆切となる。2018年度は、教確法修正について関係者へのインタビューを精力的に行いたいと考え、研究費は、インタビューのための出張旅費、および、インタビューのトランスクリプト作成を中心に使用する予定である。
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