2017 Fiscal Year Research-status Report
過疎の新しい段階と人口還流の実証研究:「極点社会論(地方消滅論)」批判として
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15K03853
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
山本 努 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (60174801)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 過疎 / 山村 / 人口還流 / 人口Uターン / 地域意識 / 流入人口 / 限界集落論 / 地方消滅論 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)九州過疎山村調査(2016年大分県中津江村調査)のデータ分析を進めており、人口還流(Uターン)、および、地域意識(地域愛着、定住意欲、地域将来展望など)について、学会報告をおこない、研究論文を仕上げた。 (2)この論文(および、学会報告)では、1996年中津江村調査(これは私が以前実施した調査)と今回の2016年中津江村調査を比較した。その結果、両調査で人口還流の存在について、大きな違いはみられないことが示された。つまり、1996年調査でも、2016年調査でも、中津江村には変わらず20%強の還流人口がある。ここから示されるのは、過疎山村地域は単に人口が出ていくばかりの地域ではない。帰って来る(さらには、入ってくる)人口も一定程度ある地域であるという知見である。これは、地方消滅論には適合しない、本研究から得られた、重要な知見と考える。 (3)しかし、2016年調査では、地域意識の後退というべき知見も同時にある。地域愛着や定住意欲はほとんど変動はないが、地域将来展望にかなり大きな後退が見えるのである。こちらは地方消滅論に適合する知見である。 (4)くわえて、2016年の中津江村調査から、疎山村集落の維持存続に最寄りの地方都市(具体的には、大分県日田市)がいかなる機能を持ち得るのか、検討をはじめた。この分析課題については、後掲の報告書を刊行した。 (5)上記(1)~(4)までの作業と同時に、山口県美祢市、宇部市、山陽小野田市などの過疎集落を訪問して、地域資料を得た。また、鹿児島県徳之島でも地域調査(聞き取り調査、調査票調査)をおこなった。この調査票調査のデータは今現在、回収中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)後掲の論文、学会報告、および、報告書(『九州山地小都市、過疎山村地域の地域課題:大分県日田市・中津江村調査報告書』)の刊行などから、総じて言えば、「おおむね順調に進行している」とは判断できる。 (2)ただし、研究の初期時点の熊本地震の影響は皆無とは言えない。今でも、調査などに支障なしとは、言えないからである。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)九州過疎山村調査は論文一本を刊行したことで、今後のさらなる研究課題がより鮮明になった。「研究実績の概要」にも示した、最寄り地方都市の研究などもそれである。人口還流については、家族的要因の分析が重要になりそうなことも見えてきた。 (2)また、鹿児島県徳之島での地域調査は、過疎的地域の存続をさぐる重要な研究になる可能性がある。過疎地域の多くが少子化が人口減少の大きな要因だが、徳之島含めて、南西諸島は総じて、出生率が非常に高いのである。また、人口還流も多く、それらを可能にする社会学的条件の研究は重要である。 (3)くわえて、本研究の途上で、ウィーン大学の九州農村調査グループ(代表:Wolfram Manzenreiter ウイーン大学教授)との交流の機会を得た。ウイーン大学の調査グループは継続的に九州農村の調査研究を実施していたのである。この交流は今後、さらに加速させていきたく思う。
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Causes of Carryover |
(1)調査に出る回数が予定よりは少なかった。この原因は学会報告準備、および、論文執筆に思ったよりも時間を取られたことが大きい。 (2)また、熊本地震の影響が皆無でなく、やや訪問しずらい地域への訪問を控えていたという事情もある。
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