2017 Fiscal Year Research-status Report
日本と東南アジアの互助ネットワークの民俗社会学的国際比較研究
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15K03860
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Research Institution | Ryutsu Keizai University |
Principal Investigator |
恩田 守雄 流通経済大学, 社会学部, 教授 (00254897)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ローンケーク(労力交換) / シェア(小口金融) / ナムチャイ(思いやり)の心 / エスニック・アイデンティティ / マイペンライ(寛容の精神) |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は日本の互助慣行をタイと比較し相違点と類似点を明らかにすることであるが、このため両国の互助関連の文献を精読し現地調査を行った。2017年8月東北部コンケン近郊の農村、北部チェンマイ近郊の山村、2018年3月北部チェンライ県メーサイ郡のアカ族山村、チェンセーン郡の農村、少数民族(タイ<ルー>族、アカ族、ラフ族、ルア族、タイヤイ<シャン>族)共生の山村で聞き取り(半構造化インタビュー)を実施した。日本のユイにあたるローンケーク(労力交換)が機械化により衰退しているが一部まだ見られる。チェンマイ近郊の山村では仏教の教えに基づく「開発僧」による農村開発が進められている。アカ族の山村ではケシからコーヒーへの転作で発展する一方伝統的な文化の継承が困難になっている。共同作業はどの村落でも見られ住民の一体感が維持され、不参加の場合過怠金を科す点は日本と同じである。金銭的支援として小口金融のシェア(レンシェア)は農村では行われていない。もともと中国の「社」がタイの中産階級に普及し都市での利息志向が強い。婚葬儀は少数民族では各出身地の生活様式が投影されている。その一方でタイ国籍取得の問題が少数民族では大きく、全体としてタイ人のナショナル・アイデンティティがエスニック・アイデンティティに代わる面も否定できない。タイでは思いやり(ナムチャイ)の心が言われているが、困窮者への救済では協同組合(サハゴーン)の利用が多く、公助や自助への要請は急速に進む近代化の証左とも言える。調査した農村では共有地(コモンズ)はほとんどないが、アカ族では保護森、収穫森、神聖森があり環境保全がされている。タイでは日本と異なり集団主義より個人志向が強いように思われ、問題があってもマイペンライ(寛容の精神)で現状を肯定する態度も散見されるが、少数民族では自民族の共益を意識した互助ネットワークがまだ健在である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に推移しているが、現地調査は当初の予定どおりできたものの日本でのタイ関連の資料収集が十分ではなかった。次年度以降南太平洋(南洋群島<旧南洋庁および支庁所在地>)の互助慣行の研究とともに日本との比較研究を進める予定である。なお昨(平成28)年度の研究成果として、研究年度の調査研究を踏まえ翌(平成29)年度に論文を完成させたため本年度はインドネシアの互助慣行について論文(平成29年10月刊行の本務校紀要)を執筆し、その成果を学会(平成29年11月の日本社会学会)で報告することができた。本年度研究のタイの互助慣行は大学の紀要論文(平成30年10月刊行)にまとめ学会(平成30年9月の日本社会学会)で報告する予定である。このタイの研究成果もインドネシア同様に当該(平成29)年度ではなく、次(平成30)年度の論文刊行と学会発表となり半年のずれが生じる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30(2018)年度は日本と南洋群島(旧南洋庁および支庁所在地)の互助慣行について比較研究するが、8月と翌年3月に島嶼地域固有の互助行為と制度、日本の互助慣行の移出入について現地調査を予定している。その後は聞き取り(半構造化インタビュー)のまとめと日本での資料の精査を通して、南洋群島と日本の互助慣行の比較またその制度の普遍性と固有性について検討する。この研究成果は本務校紀要に投稿し学会(日本社会学会)で報告する。なお平成30年7月に互助慣行のうち、金銭に基づく相互扶助である小口金融(ROSCAS: Rotating Savings and Credit Associations)を取り上げ日本の頼母子と韓国の契、中国の合会、台湾の標会との比較について、カナダ(トロント)で開催されるISA(International Sociological Association)のXIX World Congress of Sociology で報告をする予定である。
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Research Products
(3 results)