2018 Fiscal Year Research-status Report
日本と東南アジアの互助ネットワークの民俗社会学的国際比較研究
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15K03860
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Research Institution | Ryutsu Keizai University |
Principal Investigator |
恩田 守雄 流通経済大学, 社会学部, 教授 (00254897)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | クラインゲセウ(klaingeseu、相互扶助) / シュワスペネ(sawaspene、相互扶助) / ムシン(無尽) / 互助慣行の移出入 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は日本の互助慣行を南洋群島と比較し相違点と類似点を明らかにすることであるが、このため両国の互助関連の文献を精読し現地調査を行った。2018年8月にパラオ諸島(共和国)、2019年3月にポンペイ島(ミクロネシア連邦)の農村漁村で聞き取り(半構造化インタビュー)を実施した。互助慣行の移出入という点で日本が統治した南洋群島(カロリン諸島)を調査地として選定した。 パラオとポンペイの互助慣行は日本同様近代化の過程で衰退しつつあるが、村落ではまだ伝統的な互助行為によるつながりや絆が見られる。特にパラオでは葬儀に際して故人の借金を親族のみならず地域住民が負担するという慣行(omengkad el blals)が行われ互助ネットワークが機能している。パラオの農村では日本のユイにあたる直接の言葉は見当たらないが、近い言葉にmengeraklがある。ポンペイではクミアイ(組合)という言葉で共同作業を行う。金銭的支援として小口金融のムシンがパラオとポンペイ両地域で普及しているが、これは日本人が伝えた無尽で利息を求めない相互扶助的な性格が強い。婚葬儀ではパラオはomadekで弔慰金を出し、ポンペイはsawasという言葉で喜怒哀楽をともにする。 パラオではklaingeseu、ポンペイではsawaspeneという相互扶助の言葉があり、地域住民の一体感が維持されている。その一方で調査した農村では共有地が見られず共有意識は希薄である。パラオでは海岸の清掃で一部キンロウホウシ(勤労奉仕)、またポンペイでは既述したクミアイという言葉が使われ、日本的な互助慣行が浸透している。戦時下の強制労働の残滓とは言え、目上の人に対する礼儀や責任感の付与など日本の慣行が土着のそれに加わる二重構造として捉えられるものの、それらが同化することで形成された固有の互助ネットワークに基づくコミュニティが健在である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に推移しているが、現地調査は当初の予定どおりできたものの聞き取りの数が十分ではなかった。次年度以降マレーシアの互助慣行の研究とともに日本との比較研究を進める予定である。なお昨(平成29)年度の研究成果として、研究年度の調査研究を踏まえ翌(平成30)年度に論文を完成させたため本年度はタイの互助慣行について論文(平成30年10月刊行の本務校紀要)を刊行し、その成果を学会(平成30年9月の日本社会学会)で報告することができた。本年度研究の南洋群島(パラオ、ポンペイ)の互助慣行は大学の紀要論文(令和元年10月刊行)にまとめ学会(令和元年10月の日本社会学会)で報告する予定である。この南洋群島の研究成果もタイ同様に当該(令和元)年度ではなく、次(令和2)年度の論文刊行と学会発表となり半年のずれが生じる。なお東南アジアとは異なるが、当該年度の5月から6月にかけて元大学学長からの招待もあり、南インドのカルナータカ州ウドッピィ県の村落で互助慣行の調査を実施し論文(平成30年3月刊行の大学紀要)にまとめることができた。さらに互助慣行の関連論文として地域社会のケアシステムについての論文も執筆した(平成30年10月週刊『医学のあゆみ』)。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は日本とマレーシアの互助慣行について比較研究するが、8月と翌年3月に固有の互助行為と制度、日本の互助慣行の移出入について現地調査を予定している。その後は聞き取り(半構造化インタビュー)のまとめと日本での資料の精査を通して、マレーシアと日本の互助慣行の比較またその制度の普遍性と固有性について検討する。この研究成果は本務校紀要に投稿し学会(日本社会学会)で報告する。なお令和元年9月に互助慣行のうち、金銭に基づく相互扶助である小口金融(ROSCAS: Rotating Savings and Credit Associations)を取り上げ日本の頼母子とフィリピンのパルワガン、インドネシアのアリサン、タイのシェアとの比較について、経済社会学会で報告をする予定である。
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Research Products
(6 results)